「きゃあっ!抜かされた!」

「……」

「ちょっと、甲羅当てないでよー!」

「……」

「やだちょっと千速くん!なんでバックしてるのこれ!」



……どうしよう、面白い。

十面相どころか、百面相。



「あっ。……負けちゃった」



ずーん、と擬音が聞こえそうなくらいの落胆ぶりに、堪え切れなくなって笑ってしまう。



「っはは……。下手くそじゃねえか」



喉を鳴らして笑う俺を、美生が嬉しそうに見ていた。

何、と訊ねると、彼女は目を細めて。



「千速くんが笑ってる」



──自分は負けたのに。

自分にとって何もいいことなんてない筈なのに。

俺が笑っただけで、美生は嬉しそうな顔をするんだ。