巡逢~茜色の約束~

痛いのは、あのとき打ち付けた右肩?

それとも、塞がることのないこの胸の傷?



「えー、なんでやー」

「……なんでも。俺、絶対行かねえから」



いつもなら食い下がってくるところなのに、余程情けない顔をしていたのか、それ以上は何も言ってこなかった。



駅までの帰り道は、当たり障りない会話しか生まれなかった。

この前食べたラーメンが美味かっただとか、最近好きな若手女優だとか。

気を遣わせてしまってることが伝わってきて、息苦しくなった。



だって俺、気を遣われる価値なんかない人間なのに。

1つ駄目になったら全部が駄目になるような、そんな人間なのに。



“何かあるなら聞く”、なんて言葉を掛けてもらう資格、俺にはなかったよ──。