巡逢~茜色の約束~

芹沢の言葉に頷くと、俺は1人教室を出た。

振り返ることなく向かう先は、誰もいない外階段の踊り場。

着くなりポケットから取り出したケータイで電話帳を呼び出し、発信ボタンを押した。

耳元でコール音が暫く響き、それが切れたと同時に聞こえた、気の強そうな声。



『もしもし』

「もしもし。俺だけど」

『千速じゃない。何の用?』



何の用?だってよ。

お前──仮にも息子に向かってその言葉はねえだろ。



「……進路希望調査票、明日までに出さなきゃなんねんだけど」

『何よ、そんなことで連絡してきたの?先生に任せますって言ってあるのに』

「そういうわけにはいかねえんだろ。ちゃんと話し合えって──」

『千速。私、忙しいのよ。貴方の進路にかまけてる余裕なんてないの』



そんな言葉を残して一方的に切られた電話。

息子の進路にかまけてる余裕なんてない……か。

それ、本当に母親の言葉かよ。