白樺は空を見上げた。 そして、立葵は泣いていた。

 バスが右に、左に曲がり、山道を下って行
くと、海を背景に田圃や畑、小さな林が広が
る。
 小さい頃はよく、林と畑の間の怪しい道を
探検したものだった。何の事は無いただの畦
道なのだけれど。
あれ?畦道って田圃しか使わないっけ?
まあいいか。
 そんな正に田舎、と言う風景を抜けると、
随分ゴチャゴチャしてくる。
 最高19階建のマンションが数棟続き、そ
の一階部分にはコンビニ、スーパーなど商店
が立ち並ぶ。
もう少し行けば、デパートや遊ぶ所もあり
休日の暇潰しにも困らない。
 この通り暮らすには便利すぎる街だ。
その殆んどが市政の一環でデザインされた
モノらしい。
 駅前がやたら凝った造りになっていたりす
るのもな。
どうしても東京に出たければ、今年アクア
ラインも近くに出来るようだから,囲目市は
交通の便も悪くないと言えるだろう。
さて、もうしばらく走ると、先程の凝った
造りの駅に出る。
 一言で言えば"和モダン"といった感じか?
角度によっては、背景に山や海が入るので合
わないことも無いが、いいのかこれで?
 さて、この囲目駅の横の踏切を渡るとそこ
から、通称囲目サークルと呼ばれるエリアに
入る。
 この中には、大きな道路が真ん中を突き貫
けるように走っており市営の住宅、自然公園
や郵便局,消防署や警察署、そしてこのバス
の目的地である、囲目総合学校等が在る。
 「サークル」と呼ばれるのは、道路がほぼ
真円状に引かれているからだ。
丁度、このサークルの中に学芸都市として
の全てが詰まっていると言ってもいい。

『囲目総合学校前~囲目総合学校前~』

 バスのアナウンスが流れる。
 およそ、40分の登校時間がこれで終わる。

「着いた着いた。」

 そう言いながら俺達は、いつ乗ったのかも
よく覚えていない他の生徒たちと共に、バス
を降りた。

「お兄ちゃんってやっぱり凄いよね。」
「何が?」
「だって、バスの中でずっと単語帳眺めてた
じゃない。本当に勉強してるもんね。」
「まあ、それが俺の役目だからな。」
「ええ~?じゃあ私は?」
「本を読むことじゃないか。くくっ」
「むふふ~,それはいいね.」
「あのな,少しは勉強しろ馬鹿.」