目がさめると、辺りは明るかった。

草の匂い。

わたしは境内の草の上だった。朝露が少し冷たい。そして、体がだるくてあまり力が入らなかった。
ゆっくりと顔を上げて辺りを見回す。
アオの姿はどこにもない。

カナタも、あのトワと呼ばれた白い龍もいない。




「サチー!!」

静けさを破ったのはジンタの声だった。
驚いて声の方に顔を向けると、少し遠くから走ってきたジンタと目があった。
ジンタはわたしを見た途端、背負いでいた弓矢を構えた。

「雪山猫!今日という今日は成敗してやる!!」
ジンタが遠くから叫ぶ。

雪山猫?!

慌てて辺りを見回しても目に入ったのは弓矢を構えるジンタだけだった。

「ジンタ、雪山猫なんてどこに...。」
そう言ったつもりだったのに、わたしの口から出たのは低い唸り声だった。
なんだろう、声が出ない。一晩中外にいたから喉をからしたのかな。
もう少し近くに行けば小さい声で話せる...。

「お前、あの物の怪混じりの本当の姿だろ!サチを迎えに来た。早くサチを返さないと殺すぞ!」
ジンタがわたしに向かって叫んだ。


物の怪混じり?アオのこと?
ジンタ、何を言ってるの?


わたしはジンタのそばに行こうとして、だるい体を無理に起こして立ち上がった。
すると、右足に衝撃が走った。


下を見ると、矢がわたしの脚に刺さっていた。

でも、その脚は見慣れた汚い着物を着たわたしの足ではなく、白い毛がびっしり生えた獣の脚だった。
そして、獣の足元には昨日着ていたはずのわたしの着物がひきさけられ、血まみれになって落ちていた。

どういう...こと?


顔をあげると、ジンタが姿勢を整えながら新しい矢を構え始めていた。
「化け物!次は急所を狙ってやる。早くサチを返せ!」



待って...ジンタ。どうしてわたしを!

声にならない唸り声が境内に響き渡る。
次にジンタが放った矢はわたしのお腹に突き刺さった。


痛みで一瞬その場に倒れそうになった。でも、わたしは力を振り絞って右足を引きずりながら走り出した。
ジンタから、ジンタから逃げないと...。


二三本、矢がわたしのすぐ隣の地面に落ちた。振り返ると、ジンタはわたしの後を追いながらもう一本矢を構えた。
彼の放った矢がわたしの頬を掠る。
わたしは痛みをこらえながら木々の中に走っていった。