改札の前で家族と別れた。

 手を振りながら着いたら電話すると言って、ホームで一人電車を待つつもりで荷物を詰めこんだトランクを引っ張ろうとすれば、一瞬早く、取手を掴むその手があった。

「入場券買ったから」

 重いだろうからホームまで持つよと言われて、さっさと先に行ってしまう。その背中を追うように階段を上って、ホームに入った。
 風の吹きすさぶホームで、二人並んで電車を待つ。見慣れたはずの町並みが、やけに今日はキラキラしていた。

「体に気をつけて。ここよりは暖かいだろうけど、向こうもまだまだ寒いだろうし」
「わかってるよ」

 相変わらず心配性だなあと苦笑すれば、季節の変わり目に紫はよく風邪をひいてるからと返される。外から帰ったらうがいと手洗いを忘れずにと続く言葉は、もはや母親だ。
 同い年で、私の方が一月だけ年上。なのにこんな時は立場が逆転。まあ、いつもこうだったとくすくすと笑っていると、アナウンスが、乗る予定の特急がもうじき駅に到着することを告げた。

「…隼人」
「何?」
「次に会えるのは夏かな」

 何ヵ月も顔を合わせないのはこれが初めてになる。家が数軒隣で、家族ぐるみで付き合いがあって、幼稚園から小学校・中学校・高校まで一緒。多分、家族以上に同じ時間を過ごしてきた。
 一人暮らしも、ずっと行きたかった大学に進学することも、嬉しいし、楽しみ。だけど、寂しくないと言えば嘘になる。
 でも、こうなるとわかっていても、この進路を選んだのも、私。

「そうだろうね。忙しくなるだろうから、夏に紫が帰ってくるまでは会えないね」
「…」
「大丈夫。きっと、すぐ夏になるよ」

 何の根拠もない、楽観的な隼人の言葉。それでも、私はそれを支えに、もうなりかけているホームシックを乗り越えていくのだろう。