オオカミくんと秘密のキス

そして準備を終えて班のテーブルに戻ると、買い物係を引き受けてくれたメガネちゃんが買ってきてくれた材料をテーブルに並べてくれていた。





「じゃーん!」

「な、なにそれ?」


するとタラコちゃんがカバンをゴソゴソとあさり紙袋を取り出すと、中から小さい瓶を取り出す。尾神くんを除いた班全員がその瓶に食いついた。




「これはスパイスだよ!うちに色々あったから持ってきちゃった♪これで美味しいカレー作ろうね!」

「本格的ですね!」


私とメガネちゃんは、その瓶に入ったスパイスを手に取って見る。




「すごい!スパイスってこんなに種類あるんだね」

「初めて見ましたよ」

「うちのお母さん凝り性だからなんでも追求すんのよね~」


女子3人でスパイストークをしていたその時…




グイッ


「ぅお!」


いきなり服のえりを掴まれ後ろに引っ張られ、振り向くと尾神くんが私を見下ろしていた。





「な、なによいきなり!」

「…ん」


尾神くんは、紙パックのフルーツオレのジュースを私に差し出す。




「え…私に…?」

「お前以外誰がいんだよ」


素っ気なく言って私がフルーツオレを受け取ると、自分用に買った紙パックのコーヒーにストローを刺す尾神くん。




「ありがとう…でもどうして…」

「飴のお礼」

「え…」


そう言い残したあと、尾神くんは私に背を向けて固まって喋っている男子の元へ行ってしまった。私はフルーツオレを持ちながら、ポツンと立ちつくし尾神くんの背中を見つめる。





「尾神くーん♡一緒に写真撮って~」

「私も♪」


尾神くんの登場で、一気に女子たちが集まり周りを囲んでキャーキャー騒いでいる。




モテモテだな…

まあ、あれだけかっこいいなら当然か。






「全員各班につけよ~そろそろカレー作りに取り掛かるぞ」


数分後。学年主任の先生の言葉で、バーベキュー広場の外にいた生徒達は各班に戻っていく。

紙パックのストローをくわえた尾神も戻って来て、私はもらったフルーツオレをとりあえず自分のかばんに入れた。




「カレーの作り方は自由だが、基本的な作り方はしおりに載ってるからわからなかったらしおりを見るように~火傷や怪我に気をつけてやれよ!では始め」


先生の声の合図で、生徒はそれぞれの班でカレーを作り始めた。

私達の班もカレー作りに取り掛かり、予想通りタラコちゃんがテキパキと仕切ってくれた。女子は食材を切り、男子は火の番をする役割りに…






「萩原さんは野菜切るのうまいですね」

「え?そうかな?」


にんじんを切っていたら、隣でお肉を切っていたメガネちゃんに褒められた。

前から気づいていたが、メガネちゃんは同い歳の私達にも敬語を使って話す。タラコちゃん情報によるとクセで敬語を話してしまうらしい。




「うまいですよ!しかも早いし…家でもお料理してるんですか?」

「うん…まあね。うち母子家庭でお母さんが働いてるんだけど、下に弟がいて夕飯とかはほとんど私が作ってるの」


まだ小学校4年生だから、弟の世話はほとんど私がやっている。





「えらいですね!素敵なお姉様」

「そんなことないよ」


昔からそんな感じだったから、今はそれが普通になっちゃってるな。

私がお母さん代わりしてること多いから、弟とは仲いい方だし私としては苦には思ってないけど…