オオカミくんと秘密のキス

妃華ちゃんは、私と凌哉くんが近づいたからっていちいち嫉妬なんてしないのかな…


凌哉くんはモテるから、私だけじゃなくてきっと昔から凌哉くんの周りには女子がいつもいたはず…

幼馴染みだし凌哉くんの性格を理解してる妃華ちゃんは、凌哉くんが軽々しく誰かと付き合ったりしたい事くらいわかってる。だから嫉妬なんてしないし私みたいに悩んだりもしなかったと思う。

凌哉くんの彼女にふさわしいのは、本人も言ってた通り妃華ちゃんだ。

私と付き合うよりも妃華ちゃんとの方がきっとうまくいく…私が凌哉くんの彼女になっても、ヤキモチばっかり妬いて喧嘩とかたくさんしちゃうかもだし…






「おい、聞いてんのか?」

「へ?」


ぼーっと考え事をしていると、眉間にシワを寄せた凌哉くんが私の顔を覗き込んでいる。




「あ、ごめんっ…」

「集中しろよ」

「うん…」


隣で私にわかりやすく計算の解き方を教えてくれる凌哉くんが、なんだかすごく遠く感じた…

もう補習になってもいいや。とまで思った。それくらいもうここにはいたくなかった…










「そろそろ帰るか…」


夕方の6時過ぎ。スマホの時計を見て体を伸ばす凌哉くんが、あくびをしながら言った。




「そうだね!ちょうど親も仕事終わったみたいだから、最寄りの駅まで時間合わせて迎えに来てもらうよ」

「そうか。じゃあ帰る支度しよう」


私はテーブルに広げた勉強道具をカバンにしまい、グラスに残った飲み物を全部飲み干した。



やっと終わった。

3時間くらい勉強したけど、もっと長時間のような感じだったな…妃華ちゃんの前で凌哉くんと勉強するのはすごく苦痛だったけど、とりあえず苦手な科目を勉強出来て良かった…


私達はカフェを後にして外に出ると、妃華ちゃんは凌哉くんの腕にしがみついて独り占め。私は2人の数歩後ろを歩き、近くの駅までの距離を歩いた。





「駅まで送ってくれてありがとう!今日は楽しかった!また3人で会おうね」


駅に着くと、妃華ちゃんはにっこりと笑って私と凌哉くんに明るくそう言った。私は作り笑いをして、妃華ちゃんに対する複雑な想いを誤魔化した。





「気をつけて帰れよ。おばさん達によろしくな」

「うん!」


別れ際。改札の横で凌哉くんにぎゅっと抱きつく妃華ちゃん。半分予想はしていた私は「またか…」くらいに思って一瞬2人から目を逸らす。すると…







ちゅっ






軽いリップ音が聞こえてきて、逸らしていた目をとっさに2人に向けた。

妃華ちゃんの唇が凌哉くんの頬にの側にあり、頬にキスをしたんだと見ていなくてもわかった…



嫌…

こんなの見たくないよ…







「相変わらずだなお前…」

「ふふ、たまにはいーじゃん♪」


凌哉くんは怒るどころか、少し呆れている表情をしてまんざらでもない様子。妃華ちゃんのキスを受け入れているように見える…





「じゃーね!また連絡する~」

「じゃあな」


小走りで駅の改札に入っていく妃華ちゃんに手を振る凌哉くん。私は妃華ちゃんに手を振る事も「バイバイ」と言う余裕となかった…

凌哉くんを隣にして駅を行き交う人混みの中で、ひとり今にも泣きそうになっていた…




凌哉くんにキスをした妃華ちゃん…

一方的のキスだったけれど、凌哉くんは私の前でそれを受け止めた…





「俺らも帰ろうか。送ってくよ」


何事もなかったように私に話しかけ、先に歩き始める凌哉くん。私はコクリと頷いて凌哉くんについて行った。

駅からしばらく歩き人通りの少ない路地に入る私と凌哉くん。少し前を歩く凌哉くんが何か話していたようだったが、私の耳には全く入って来なかった。


頭の中は、さっきから同じ言葉が何度も繰り返し聞こえてくる…








やっぱり無理…

私は凌哉くんと付き合えない…







さっきの妃華ちゃんの行動を見たあとの自分の気持ちを思うと、凌哉くんとは付き合えないと思った。

凌哉くんの彼女になる自信を100%失った…