オオカミくんと秘密のキス

おっと。あんまりジロジロ見るのはよそう…

私はよく睨んでるとか勘違いされるし…それに尾神くんとは同じ班だから、印象が悪くなったら嫌だし。




「そうだ。飴買ったんだっけ」

「1個ちょうだい」

「うん!ちょっと待って」


カバンからキャンディの入った袋を出して封を開けると、棒に刺さった飴の包み紙を剥がした。それをそのまま春子に差し出そうとすると、横から長くてゴツゴツした手が伸びてきた。





「えっ……ちょっと!」


手を伸ばして来たのは…通路を挟んだ隣に座っている尾神くん。春子にあげようと思ってたキャンディを奪い、目を向けた時にはもう口に入れていた。




「…くれ」

「食べてから言わないでよ」

「いっぱい持ってんだからいいだろ」


尾神くんは、私の持っているキャンディの袋を見て言った。





「まあいいけど…」

「お礼にこれやる」

「え…」


そう言って、尾神くんは私の膝のあたりにゴミをポンと投げる。





「これゴミじゃん!」

「ゴミ袋ねえから捨てといて」


なんなのも~

なんであいつのゴミを私が捨てなきゃなんないのさ!ってゆうか何で話しかけてくんだろ…





「ごめんね春子。今新しいのあげるからっ」

「うん。…それよりさ。沙世が男子と話すなんて珍しいね~尾神くんといつの間にか話す仲になったの?」

「た、ただ同じ班だからちょっと話しただけだよっ」


話す仲なんて…今のは話したうちに入んないよ。





「そっか。沙世と尾神くん同じ班なんだね」

「そうそう!それだけだよ」

「尾神くんがあんなふうに話すなんて…見た目からは想像つかないね。どっちかっていうとクールで一匹狼タイプじゃない?」


春子の言う通りだ。

バスの中ではしゃぐよりも、今みたいに一番前の席に座って音楽を聴いているのが見た目通りの尾神くんらしい…

私にゴミを投げてくるようなタイプには見えないんだけどな…うーんわかんない。

あの人なんかつかめないな。



そして数時間後、バスは牧場へ到着。

私達生徒は牧場の広々としたバーベキューエリアへ向かい、コンロがついているテーブルに班ごとに集まった。

テーブルを囲むようにそれぞれ6つの椅子があり、 床はコンクリートで上には屋根がついている。果てしなく広がる芝生の中にあるバーベキュー広場は、とてもいいところだと思った。





「班のリーダーは点呼を取れー。トイレに行きたい奴は行っていいぞ。準備係りは先生のところに集まってくれ」


そうだ。私準備係だったんだっけ…誰かさんのせいで…

ま、リーダーはタラコちゃんがやってくれたから、私もちゃんとやらなきゃな。





「準備係頑張れよ」


隣にいる尾神くんになんだかすごくムカつく口調で言われ、私はキッと睨みつけた。



ヤ、ヤバ!

私がこんなふうに睨んだら、また怖いだのなんだのって言われちゃう!

慌てて睨むのをやめると、尾神くんはクスッと笑い立ち上がった。





「俺は準備係じゃねえし暇だから、ジュースでも買ってくるわ」

「くっ…」


わざとらしくそう言うと、尾神くんはバーベキュー広場の一角にあるデッキの中へ入って行った。

私はくぅぅと唇を噛み締めたあと、先生の所に集まり道具係の仕事へ。『道具係』という名前にふさわしく、カレー作りに使うキッチン用具をテーブルに運ばされた。