オオカミくんと秘密のキス

「なんで急に私とジャンケンなんかしたの?自分が準備係やりたくないのはわかるけど…みんなでジャンケンした方が良かったんじゃない?」


私とジャンケンしたら負ける可能性だってあったのに…どうして?




「…お前がジャンケンて言ったらしたくなった」

「…は?」


なにそれ。子供じゃないんだから…





「ま、準備係頑張れよ…萩原」

「え、ちょっと待って」

「あ?」


私に背を向ける尾神くんを、私はとっさに呼び止めた。





「私の名前…どうして知ってるの?」

「え?」


不思議そうな顔をして振り向く尾神くんを見て、ハッと今自分の言ったことを後悔した。


私…変な質問したよね?




「ご、ごめん!変なこと聞いちゃって…やっぱりいい!」

「それ」

「え…」


尾神くんは、私の着ている学校のジャージの胸元に刺繍してあるネームを指差した。

これは学校から指定されているネーム刺繍で、ここの学校の生徒なら全員ジャージの胸元には自分の名前が刺繍されている。

5時間目は体育だったから、放課後着替えればいいと思って私は今もジャージのままだった。





「あ、そっか!そうだよね…私ったら」


頭をポリポリとかくと、尾神くんはクスッと笑った。




「面白い奴」


そしてそう言ってまた笑うと、尾神くんはズボンのポケットに手を入れて自分の席に戻って行った。



男子とあんなふうに話すの初めて…

尾神くん…からかってきたけど結構感じ良かったな。他のみんなもいい人だったし…なんかホッとした。

遠足…ちょっと楽しみかも……











そして遠足当日の朝。

学校からクラスごとにバスで出発して牧場に向かった私達。今日は制服ではなく私服を着てきてもいい為、生徒達は皆おしゃれをしている。バスの中はそれぞれ盛り上がっていてとても騒がしかった。




「ポッキー食べる?」

「うん、ありがとう」


隣に座っている春子からポッキーをもらい、私は口に入れた。


バスの席順は自由席の為、私は当然春子と隣同士に。

他の生徒達が騒いでいる中、私と春子だけはとても静かに過ごしている。いや…私達の他にもう2人か…


私の席は一番前の席でその通路を挟んだ隣には、あの尾神くんがいた。

バスの席順は自由だから、後ろの方の席は人気ですぐに埋まってしまった。春子と隣りになれればどこでも良かった私は、適当に一番前の通路側の席に座ったのだけれど…

ふと気がついた時には、隣りの席に尾神くんが座っていたからちょっとびっくりした。しかも私と同じ通路側だし…


席なんてどこでも構わないんだけど、一番前に座って大人しくイヤホンで音楽聴いてる尾神くん…

他の男子みたいに騒いだりしないのかな…?いつも尾神くん達と一緒にいる男子達は後ろで騒いでるのに…

今日の尾神くんはなんか雰囲気違うかも。


それに尾神くんの隣りの窓側に座ってるのって…確か柳田(やなぎだ)くんだよね?

柳田くんも普段は尾神くんと同じで騒がしいグループにいるのに、今は窓側の席で本を読んでいてとても静かだ。



2人は仲いいのかな?