オオカミくんと秘密のキス

本当は風邪をひいたわけではなく、これは尾神くんからのキスを防ぐアイテム。

キスしようとしてきたらまずマスクを取らないといけないんだから、絶対といっていい程キスを防げるよね!




ガラ…


教室の前のドアが開き、尾神くんが柳田くんと教室に入ってくる。教室に入るなり尾神くんは私のことを見てきた。

マスクをしている私に気づいて、尾神くんは立ち止まって私のマスク姿をじっと見ている。



「ぷ、ハハハ…」


そして肩を震わせて笑いながら、私を通り過ぎて自分の席に座った。




「ん?どーした凌哉?」

「…いや、なんでもない」


柳田くんの質問に笑いながら答えた尾神くん。きっと目の前の私を見てニヤニヤしてるだろう…見なくてもわかるよ!


もしかしてマスクをしてる理由感づかれたかな…?

だとしたらちょっとムカツク。





その日の放課後


う¨…なんで……



HRを終えて春子と図書室へ行くと、尾神くんが図書室のテーブルに座り、今日は堂々と雑誌を読んでいた。

隣には柳田くんの姿も…



なんで?なんで?

昨日までコソコソしてたくせに、今日は図書室の利用者のフリしてるわけ?


そ、そう来るなら私だって戦ってやる!



グッと拳を握り締めながらカウンターに座り、尾神くんを監視する私。

マスクをしてるんだから大丈夫!今日こそあのオオカミのペースにはまったりするもんか!


尾神くんは肘をついて平然とした顔で雑誌をペラペラとめくり、すごく大人しくしていた。隣にいる柳田くんは難しそうな本を読んでいて、なんだか2人だけ知的に見えてキラキラと輝いている。



オオカミは雑誌を読んでいるだけなのに、まるで勉強してるみたいに見えるのは何故?

なんか……意外に図書室が似合うかも…


今日は図書室の利用者が少ないという理由もあるが、カウンターに座っている私は自然に尾神くんに目がいってしまう。


あんな奴!…と心で首を横に振り春子との会話に集中したけれど…

何かしらちょっかいを出してくると思っていたのに、尾神くんは特に何かして来るわけもなくこっちを向くこともあまりなかった。




何クールにあそこに座って大人しくしてんのよ!あんたあんな性格じゃないくせに!


なんだか拍子抜けしたけど、おかげで時間があっという間に過ぎて図書室を閉める時間が近づく。

カード整理をして、そろそろ図書室を閉める準備をしようかと思っていた時…




「これ借りたいんだど…どうやって借りたらいいの?」


カウンターにいる私と春子に本を差し出したのは、柳田くんだった。後ろには尾神くんもいる。




「えっとね…まずこのカードに…」


春子が柳田くんの対応をしてくれたのは有難いんだけど、尾神くんの視線が私に痛くぶつかってくるのが気になる。





「私…返却の本戻してくるね!」

「うん!お願い~」


返却boxの本を持ち、逃げるようにカウンターから離れる私。

あのままあそこにいたら、どうせ隙を狙って私をからかってくるに決まってる。そんな手には乗らない…