カリカリカリ…


ある日の放課後。

私は誰もいない静まり返った教室で、凌哉くんと日誌を書いていた。




「ごめんね。私掃除もあったから遅くなっちゃって…」


自分の席で日誌を書いていると、前の椅子に私に体を向けて座る凌哉くんが手を頭の後ろに回して言った。




「たまには遅くまで学校にいるのもいいもんだよな。2人きりの教室なんて…なんかドキドキするだろ?」

「べ、別にしないよ」

「沙世と日直になりたいから、席替えの時に隣同士になったんだよ」


そっか。

だから前の席替えの時に、頑なに隣の席になりたがってたのか…

私は凌哉くんと隣の席になれたことが嬉しくて、日直のこととか忘れてたよ。


私はそんなことを考えながら、日誌に向かってペンをすべらせた。



確かに教室に2人きりだとドキドキするかも…

いつもただ何気なく生活してる場所に、好きな人と2人でいるとなんかいけない事してるみたいな気分になる。






「…よし。終わった」


日誌を書き終えた私はノートを閉じて、シャーペンをケースにしまおうとすると…




グイッ



「えっ…」


するといきなり横から凌哉くんに手を引っ張られた私は、そのまま教室の窓側の方に連れていかれた。

手に持っていたシャーペンが床に落ちるカランという音が、教室に響く…






「ちょ、ちょっと…」


やや強引に私をカーテンに押し込む凌哉くんは、ニヤニヤしながら私に抱きついてくる。





「教室でキスしたいだろ」

「えっ」


教室でって…それはちょっと…




「ここなら隠れてるから誰にも見られないだろ」

「う…」


段々と私のことわかってきてるな…

私が嫌がる事を知ってるから、その前に先手を打ってくる凌哉くんが怖い…


この教室の窓から見えるのは裏庭だけだから、カーテンにいても今の時間帯は外から誰かに見られる可能性は低い。

凌哉くんはそれも全部計算済みってわけね…すごい。






「ちょ、ちょっとだけ待って!」


キスはもう結構たくさんしてるけど…する前はまだすごくドキドキする。

私は凌哉くんの胸に顔をくっつけて、ふぅ~と息を吐いた…




「時間切れ」

「えー早いよ」


凌哉くんは私に顔を近づけて来た。




「キスすんのに待ったなんてなしだ」

「なんでよっ」


意地悪だなぁ。少しくらい待ってくれてもいいのに…




「待つなんて無理。早く沙世とキスしたいから」

「っ…」


凌哉くんはそう言うと、私のあごを持ち上げてそのままキスをした。




そういえばいつもキスをしてから思う…

私は凌哉くんがキスをしてくれるのを待ってたんだなって…

恥ずかしいからいつも焦らしちゃうんだけどね…





「待ってって言ってた割には積極的だな」

「は、はぁ!?そんなことないから!」


甘い雰囲気から、急に騒がしくなる私達…でもこんな時間も嫌いじゃない。



誰もいない教室で、私達だけの思い出が生まれる…

夕日のオレンジの光だけが私達を照らしていた…







END