オオカミくんと秘密のキス

私が口を挟んだせいで…せっかくうまくいきかけていたのに、2人の仲に亀裂が入っちゃったかな…






「悪いけどうちら先に行くから…」

「あ…」


春子は柳田くんの手を引いて「行こ」と言って、次のステージに先に向かって行った。


私の気分はしょんぼり…

春子の背中を見つめながら、なんだか悲しい気持ちになっていた。







「ごめんね。私達のせいで沙世に嫌な想いさせて…」


私に近寄って来る樹里は、申し訳なさそうにそう言うと私の背中をさすってくれた。





「ううん…気にしてないよ」


春子にあんなこと言われたの初めてだから、本当はちょっと気にしてるけどね…




「とにかく…この競技ゴールしたら私達は大人しく帰るから。そしたら春子もいつも通りに戻るだろうし」


ハァとため息をつく樹里に、私はもう一度だけ聞いてみた。





「それでいいの?」


春子と仲直りしたくて、思い切って文化祭に来たんじゃないの?

なのに諦めていいのかな…





「仕方ないよ…春子があの調子じゃあ……どんなことをしても私達のことは許してくれないよ」

「…」

「とりあえず競技に戻ろ!こんな楽しいイベントに沙世参加出来ただけでも良かったよ…」

「樹里…」


頑張って笑う樹里に胸が痛む。





「…大丈夫か?」


樹里が私から離れると、凌哉くんが片方の手で頭をくしゃっと撫でる。





「うん…」


そんなに大丈夫じゃないけど…今は頷くしかないよ。

でも弱ってる時には彼氏に甘えたいもんだよね…


私は凌哉くんの胸に控えめだが寄りかかってみせた…すると…






「…沙世」

「ん?」

「…競技は辞退してこのままどっかふける?」


とっさに凌哉くんの顔を見上げると、真剣な顔していた。






「しません!」

「素直じゃねえな」


口をとがらせる凌哉くんは、私にぎゅうううっと抱きしめる。





「は、早く行かないとっ」


春子達は先に行っちゃったし、こんなことしてる場合じゃないよ!





「…真面目かよ」

「凌哉くんがこのイベントに出ようって誘ったんでしょっ」

「そーでした」


ハイハイとめんどくさそうに言う凌哉くんは、私から離れて樹里と絢人カップルと次のステージへ向かう。


今はスタートした時のワクワク感よりも、ゴール後の不安でいっぱいだった。

うまくいくと思っていた事が全て壊れていく…

一度壊れた人間関係を修復するのは不可能なんだろうか。

そんなのはきれいごとに過ぎないのかな…


考えが甘かったと誰かに言われているようで、胸が張り裂けそうだ。






「次はクイズ大会だってよ」


隣にいる凌哉くんが地図を見て言った。私は気持ちを切り替えるように笑顔をつくり、凌哉くんの方に目を向けた。





「クイズかぁ…苦手だな」


今まで生きてきた中で、クイズを出されている答えられたこと自体少ない気がする(笑)







「だろうな。沙世は答えなくていいよ」

「ム…」


そーですね!

勉強の出来る凌哉くんにここはお任せしましょう!




「でも女向けのクイズは答えられないから、その時は助けてね。オシャレとか料理とかさ…」


凌哉くんはボソッとそう言うと、手錠で繋がれた私の手をぎゅっと握った…