オオカミくんと秘密のキス

私の口を押さえたのは尾神くんで、薄暗い書庫の部屋の中で尾神くんが私を見ながら人差し指を口元に立てていた。




ガチャ…

カチャン


尾神くんは書庫のドアを閉めて内側から鍵をかけた。

「どうして?」と言おうとすると、尾神くんはまた「しー」っと人差し指を立てる。



奥のあの場所にいなかったから、嘘つかれたと思ってたのに…書庫にいたんだ…


嫌だ私…尾神くんが来てくれて安心してる…?

何で…





「沙世ー?」


春子!?


カウンターの方から春子の声がする。

どうしよう…!

尾神くんと一緒にいる所を春子に見られたら変な勘違いされるよね。まだ春子に尾神くんのこと話してないのに…




「あれ?どこ行ったんだろ…」


ガチャ

ガチャガチャ



書庫のドアノブを回す春子。物音を立てないように私はピタリとも動かず息も止めていた。



ぎゅ…


ぇ…


口を押さえている手を外すと、今度は私の背中に手を回す尾神くん。



これって…抱きしめられてる?


尾神くんの硬くてゴツゴツとした男らしい体がくっついて、心臓の音が聞こえちゃいそう…

男の子に抱きしめられるなんて…これは現実だよね…?




ガラ…

パシャン…


春子が図書室から出ていく音が聞こえると、私は尾神くんを突き飛ばしていた。





「やめてっ!」


できるだけ尾神くんから離れると、尾神くんは無表情のまま私を見下ろす。




「…怒んなよ」

「お、怒るに決まってるでしょ!なんなの本当に…」


やっぱりこいつは狼だ!

キス魔で変態オオカミ男!!!





「てゆうか…何で書庫にいんのよ…びっくりして幽霊か不審者かと思った」

「驚かせようと思ってここに忍び込んでたんだ。お前が昨日のあの場所に来ない可能性もあると思ってさ。ここにいれば何かしらお前と絡めるかなって」


…読まれてる。

さすがオオカミ男。鼻が利く。





ブーブー

ポケットに入れているスマホが鳴り、出して画面を見ると春子からの着信。私はすぐに電話に出た。




「も、もしもし?」

「もしもし?どこにいるの??」


心配そうな春子。




「ごめん、ちょっとトイレにいるの…急にお腹痛くなっちゃって…」

「嘘?大丈夫!?どこのトイレ?すぐそっち行くよ!」

「い、いいよ大丈夫!もう少し時間かかりそうだし…」


私の言葉を聞いて尾神くんがぷっと吹き出して笑うと、ムッとした私はすぐにキッと睨んだ。