帰りの車内も、みんなの電池は切れることなく騒がしい。ただひとりを除いては…





「尾神くん寝てるの?」


バスの一番後ろに座っている私の肩にもたれかかっている凌哉くんを見て、春子が私に話しかけてきた。




「うん…昨日私が熱出ちゃったから、看病してくれてたからあんまり寝てないみたいなの」

「そっかぁ。沙世は体調大丈夫?」

「平気平気!ただの疲れから来る熱だから遠足熱みたいなものだよ」


旅行先で熱を出すなんてカッコ悪いな…

おかけでこの旅行は色々あったから、一生忘れないと思うけど。






「私らは昨夜2人はイケナイことやってるって話してたのにね~」


口をとがらせて言う妃華ちゃんにアハハハと笑って見せる私は、ファンデーションで隠した首筋のキスマークをなんとなく手でも隠した。




何にもなかったわけじゃないんだけどな…

私の寝ている間に、オオカミにちょっかい出されてたというのが正しいけど。


でもせっかく凌哉くんと2人きりになれたんだから、もっと夜遅くまで起きてラブラブしたかったなぁ…












「ありがとうございました!」


数時間後。バスは無事に私達の地元に着き、行きの集合場所だった凌哉くんの家の前でとりあえず全員がバスから降りる。

妃華ちゃんの知り合いのご夫婦にお礼を言うと、バスはゆっくりと私達から離れて行った…



旅行終わっちゃったな…


なんか寂しくなる。

まだお昼だしもっと凌哉くんといたいけど…まだ眠そうだし……わがまま言えないな。





「私達はこのまま帰るね~夏休み終わる前にまた会おう」  

「お疲れさま」


春子と柳田くんは、仲良く肩を並べて帰って行った。私は春子と今夜lineをする約束をして、2人を見送った。





「私も帰るわ。長居する理由ないしぃ」


妃華ちゃんはサングラスをかけると、そう言って私達に背を向ける。





「駅まで送るよ」


すると、溝口くんが妃華ちゃんを追いかける。




「なに急に優しくしてんのよ。キモイんだけど」

「うるせー。俺も駅の方に行くんだからついでだバーカ」  


荷物を抱えた2人が、口喧嘩をしながら帰っていく…



その場には私と凌哉くんと弟達だけになり、しばらくしーんと静まり返りセミの声だけが鳴り響いていた。






「ねえ…俺たちこれから市民プール行きたいんだけどいーか?」

「え?プール??」


洋平が私の服を引っ張る。




「プールって…水着は?」

「持ってきたのがある」

「あ、そっか…でもあんた疲れてないの?」


旅行帰りによくプールなんて行けるよね…





「もうすぐプール終わっちゃうからいかないともったいないだろ!」

「まあそうだけど」


あと二週間くらいで夏終みが終わるから、市民プールも閉まっちゃうんだよね。





「行かしてやれよ。子供は体力が有り余ってるから、遊びたくて仕方ないんだよな」


凌哉くんは洋平と隆也くんの頭を、くしゃくしゃと撫でた。





「さっすが凌哉兄ちゃん!わかってるね~」

「その代わり昼飯ちゃんと食ってから行けよ。隆也、洋平と先に鍵開けてきて」

「はーい!」


凌哉くんから家の鍵を受け取ると、弟達は走って家の中に入って行った。






「家にお邪魔していいの?」


荷物を抱える凌哉くんに聞くと、私の顔を見てキョトンとした顔をする。





「なんかこれから用事あるの?」

「う、ううん…そういうわけじゃないけど」

「なら寄ってけよ。ついでに昼飯作って」


ニッと笑う凌哉くんにドキッとする。

もっと一緒にいたいと思ってたから、すごく嬉しい!まだ凌哉くんと一緒にいられるんだ!

私は笑顔で「うん!」と大きく頷いた。






「お昼何食べたい?」

「んー…前に沙世が作ってくれた辛いチキン」

「あーあれね。凌哉くん「美味しい」って言っていっぱい食べてくれたよね!」


お母さんから教えてもらったレシピだから、失敗しないで作れたし余計に嬉しかった。






「辛いの好きなんだよ」

「そうなんだ~」


覚えとこ!





「あと飯食った後…沙世にやってほしいことがある」

「…なに?」

「夏休みの宿題。手伝って」

「あ~…」


宿題やってないのね…しょうがないな本当に。





「いいよ」


呆れながら返事をすると、凌哉くんは笑って私の耳元に顔を近づけた。




「…沙世に手伝ってもらうために、あえてやってなかったんだ」


ひそひそと耳元で言う凌哉くんの声に、また胸が高鳴った…



凌哉くんて本当にズルい…




旅行が終わっても思い出は続いていく。

凌哉くんと過ごした夏休みは、すごく幸せなものになった…