オオカミくんと秘密のキス

「明日またリベンジするから、今日はおとなしく帰るよ」


私から離れると、尾神くんは床に置いてあるカバンを持って肩にかけた。





「リベンジって…」

「明日また来る。明日の放課後も委員会あんだろ?」

「あるけど…来なくていいです!」


尾神くんはまたクスッと笑う。その顔を見るとなんだか寒気がゾクっと背中に走った。





「いや来る。だから明日もこの場所に来てね」


意地悪な笑顔ではなく、王子のような爽やかな笑顔を見せる尾神くん。

これが本性ではなく演技だってわかってるのに、私はその笑顔にドキドキしてしまった…


改めて正面から見る尾神くんの顔は、本当にかっこよくて…こんなに完璧な人は今まで見たことなかったなぁ…なんて悔しいけど思ってしまったのだ。





「じゃあな沙世」


クルッと私に背を向ける尾神くんに、私はとっさに声をかけた。




「沙世って呼ばないでっ」

「…じゃあ『沙世ちゃん』?」

「それはもっと呼ばないで!!!」


なんでちゃん付け!?

それにどうして私のこと呼び捨てで呼ぶのこの人…本当に掴めないな…






「俺の事も『凌也』でいいから」

「呼ばないよ…名前でなんて…」


『凌也』なんて呼び捨てしたら、他の女子たちにどんな目で見られるか…

その前に呼び捨てで呼ぶような仲じゃないから、呼びたくなんてないし。




「何で?俺達友達だろ?」

「いつ友達になったわけ…?」


今のところ、遠足の班が一緒だったのと席が近いくらいしか接点ないけど…

あ、でもキス…したのか……

いやいや!されたんだけどねっ!一方的に!!!

だからってそれが友達とは結びつかないよ!





「いや友達ってゆうか…」


尾神くんは私の方を向くと、ぐっと顔を近づけてきた。




「キス友達、だな」


意味深な口調でそう言うと、尾神くんは私のおでこにちゅっと軽くキスをした。そして「じゃあな」とまた背を向けて私から離れていく。

すぐに図書室のドアが開いて閉まる音がして、尾神くんが図書室から出て行ったんだと思った。


私はしばらく放心状態のままその場に立ち尽くす。考えるのはもちろん尾神くんのことだ。

そして壁の貼り紙を見ながら心の中でこう思った…





あいつは『尾神』じゃなく…


『オオカミ』だ、と。