オオカミくんと秘密のキス

あれ…?

今から春子に妃華ちゃんを紹介しようとしたのに、こんなスタートになっちゃった…

なんか2人共仲悪い感じだけど…?





「親友?…ふーん……ってことは古い付き合いってやつね。私はね沙世ちゃんと最近親友になったばっかりなの♪」

「親友!?そーなの沙世!!!?」


あんぐりと口を開いて「はぁ?」と言う春子。





「えっ……!えっと…」


親友ではないと思うけど…否定したら妃華ちゃんが傷つくかな…





「沙世をあんな酷い目に合わせた女が、親友なんて言わないでっ!」


妃華ちゃんに指を差して言う春子。



え!

どうして知ってるんだろ…

春子には話してないはずなのに…


ぁ。




その時近くで凌哉くん達と話していた柳田くんが、こっちを見ながら両手を合わせて謝るポーズをした。



なるほど。

柳田くんから春子に漏れたのか…

別に話しちゃいけない内容ではないけど、出来れば旅行が終わってから言って欲しかったかも…






「あれは過去の話よ。今はめっちゃ仲いいんだからいいじゃん♪もー忘れようよ、ね?沙世ちゃん?」

「え…あ、うん…」


妃華ちゃんに肩を抱かれて言われたら、とりあえず今は頷くしかない。

これから旅行に行くんだから揉めたりしたくないし…






「甘いよ沙世っ!こんな嫌な女のことどーしてかばうのさ!!!」

「うっさい女だね…ったく」

「なんだって!!!?」


2人の仲はどんどん悪くなるばかり…





「…何やってんだお前ら」


戸惑っている私を見かねてか、凌哉くんが
私達の側にやって来る。



良かった…

凌哉くんが間に入ればなんとか収まるかも!






「凌哉は引っ込んでて。これは女の問題なの」


そう言って、凌哉くんを出て軽く追い払う妃華ちゃん。



うそ~

男は入ってくるなってこと…?






「なんだよそれ…せっかくの旅行なんだから面倒くせえ問題起こすなよな」

「私のプレゼントした旅行なんだから、私の好きにさせてもらうよ。それにこんなの問題にもならないから安心して」


妃華ちゃんは凌哉くんにウィンクをすると、スタスタと歩いて停車しているバスに乗ってしまった…隣にいる春子が「なんだあいつ~」と言ってキーと怒っている。



凌哉くんと話す妃華ちゃんの口調や態度も、以前とは全く違うものになっていた…

ぶりっこも計算もない、きっとあれが素の妃華ちゃんなんだと思う。





「私達も行こうか」

「…そうだね。でも私はあの子の隣は絶対嫌だからね!」

「はいはい…」


私と春子は荷物をバスに詰むと、中に乗りこんで席に座った。

バスは中型車でワゴン車タイプのタクシーのようで、13人乗りのようだ。弟達も先にバスに乗っていて、2人で仲良くゲームをやっている…






「そろそろ出発するけどいいかしら?」


妃華ちゃんの知り合いの御夫婦が声をかけて来て、私達メンバーは全員バスに乗り込むとバスはゆっくりと発車。



いよいよ軽井沢へ旅行!

私の胸は踊りワクワクしていた。







しかし…




「…」


車内は男子達と弟達の声ばかり響いて、女子の声は一切ない。

バスの一番後ろの3人がけの席に、妃華ちゃんと春子に挟まれて座っている私はすごく気まずい。

さっきから会話はないし、2人はお互いにそっぽを向いて窓の外を眺めている。







「チョコ食べる~?」


持ってきたお菓子を出して、両隣の2人に明るく話しかけてもお互いに首を横に振る。



こ、怖い…

2人共機嫌直してくれないかなぁ…










「俺にもくれ」