オオカミくんと秘密のキス

夕方になると突然雨が振り始め、外は嵐のような天気になった。

心配になって沙世ちゃんに電話をかけた凌哉だったけど、どうやら繋がらないみたい…




嘘…

何かあったのかな…



さすがの私も焦りを感じやばいと思っていた。

沙世ちゃんを探しに家を飛び出した凌哉…



大変なことになっちゃった。

私のせいだ…





どうしよう……










「響子ママ…」


心配そうに窓の外を見つめる響子ママに近づき、私は手を震わせながら打ち明けた。






「沙世ちゃんにケーキ頼んだの私なの…」

「えっ…」


こんなこと話したら、怖くて響子ママの顔を見られない。


凌哉のお母さんとは私も長い付き合いで、もう親戚のおばちゃんみたいな存在だった。そんな家族のような人に、私はきっと軽蔑されたに違いない…







「…妃華ちゃん…とにかく今は沙世ちゃんが無事に見つかることを祈りましょう」


響子ママはそう言うと、また窓の外を眺めていた。雨はより一層強くなっている…





「帰って来たらちゃんと謝るのよ…」

「はい…」


雨の音でかき消されそうな声で言う響子ママの言葉に、私は静かに頷いた。





お願い…

沙世ちゃんが無事でいますように…っ!






30分経っても凌哉は帰って来ることなく、連絡もない。

響子ママはそわそわして落ち着かない様子で、弟くん達もなんだか不安そう…


私はリビングのソファーに腰掛けて、両手の指を絡ませて握ると祈るように目をつぶった…





「…遅いわね」


響子ママは心配でたまらず、自分のスマホを手にして凌哉に電話をかけようとしていた。






「妃華ちゃん…」

「ん?」


電話をかけようとした手を止めて、響子ママは私を見つめる。





「さっきのこと…凌哉に話すよ?」

「…」


そうだよね。ここまで来たら話さないわけにいかない…

私が「はい」と返事をすると、響子ママはため息をついた後凌哉に電話をかけた。






「…あ、もしもし?」


すぐに凌哉が電話に出た様子で響子ママと話し始めると、スマホから凌哉の慌てている声が漏れてきた。







「…来てないわ。凌くんは今どこ?そう…」


今の会話だとまだ沙世ちゃんと会えていんだ…





「あのね凌くん…」


響子ママが言いにくそうな口調で話を切り出す。

…私が凌哉に嫌われるまでのカウントダウンが始まった…






「…あの……妃華ちゃんがね…少し前に沙世ちゃんと電話で話したんですって…」



これで…







「…凌くんの目を盗んで携帯を見たらしいの…」



私の…






「ケーキ屋さんに行かせたんですって…凌くんの誕生日ケーキを…来る前にケーキ屋に取りに行ってって頼んだらしいの」




初恋も終わった…






「それでね…そのケーキ屋さんはa町にあるから、もしかしたら沙世ちゃんはそっちの方にいるんじゃないかしら…?そう!a町の駅前のケーキ屋さんよ!」


2人の会話は続いている。

さすが響子ママ…きっと私に怒りを向けている凌哉に、遠まわしに「落ち着いて」と言っているような話の切り返し。

でも凌哉はもう私のことなんて…幼馴染みとしても見てないかもしれない。






「これは私の推測だけど…沙世ちゃんは多分a町の方にいるんじゃないかしら?ケーキ屋さんに寄った帰りに雨が降ってきたから、どこかで雨をしのいでるのかもしれないわ…ただわからないのは沙世と連絡がつかない理由よね…」


響子ママはすごい。こんな時も冷静でいられるんだから…







「…ヤキモチ妬いっちゃったのよ…幼なじみに彼女が出来たから、ちょっと意地悪しちゃったんじゃない?」


きっと…今凌哉は電話越しで私のこと怒ってるんだな。会話からわかる。