オオカミくんと秘密のキス

洋平は俺の家にいるし、沙世の母ちゃんは仕事に行ってる…

わかってるのに…






「クソ…」


俺はその場から走り出してアパートを出ると、今度は駅前に向かった。




どこに沙世がいるのかなんてわからない。


だけど…

立ち止まってなんかいられねえだろ…







ザーーーーー…

ザーーーーーーーー…





雨がすごすぎて、あたり一面が真っ白な霧に包まれたみたいだ。

こんな突然の大雨はすぐに止むだろうと思っていたけど、止む気配は一向にない。






沙世…頼むから無事でいてくれ。

お前に何かあったんじゃないかって思うと…それだけで怖くなる。

大切な人が出来たのにそれを失うことを考えると、そんなに怖いことはない…







沙世…









「ハァハァ…」


また信号に引っかかって立ち止まると、俺はさしている傘を閉じた。

傘をさしているのに服や体はびしょびしょに濡れている。だったら邪魔なだけだし、傘なんていらない。





何も考えずにとりあえず駅前まで来たけど…

ここに来てどうすればいい…?


沙世が行きそうなところを探すか…それとも…ここから電車で東野の家の方に行ってみるか…

だけど…この雨と風じゃ、きっと電車は一時的に見合わせている状態だ。電車が止まってるなら東野の家に行くのは時間がかかり過ぎる…






♪♪♪♪♪♪…


すると、また俺のスマホが鳴る。沙世からだと思ったが着信はお袋からだった。





「沙世来たか!!?」


もしもしも言わずに、一方的に用件を問いかける俺。電話の向こうでお袋は少し驚いているようなリアクションをしたあと、すぐに冷静に話始めた。






「…来てないわ。凌くんは今どこ?」

「……駅前。沙世の家に寄ってみたけどいなかった」

「そう…」


もしかしたら沙世が俺の家に来たんじゃないかという淡い期待は、呆気となく摘み取られ俺はまた頭を抱える。







「沙世の奴…数時間前まで友達と一緒だったみたいなんだ。その友達とは3時半くらいに別れたらしいんだけど…そこから行方不明で…」

「…そ、そう」

「なぁ、ちょっと洋平にかわってくれねえか?沙世の行きそうな所聞きたいんだけど…」

「あのね凌くん…」


お袋が何やら言いにくそうな口調で、俺との会話を止めた。

俺は「何?」と言ってお袋の言葉を待った。







「…あの……妃華ちゃんがね」

「妃華?悪いけど後にしてくれよ。今は沙世のことで…」

「少し前に沙世ちゃんと電話で話したんですって…」

「え…」


沙世と…妃華が…?







「なんで…?妃華は沙世の連絡先知らないはずだろ?」

「…凌くんの目を盗んで携帯を見たらしいの…」

「はぁ!?」


携帯見た!?




「何でそんなことすんだよ!?」

「ケーキ屋さんに行かせたんですって…」

「あ?」


ケーキ屋?





「凌くんの誕生日ケーキを…来る前にケーキ屋に取りに行ってって頼んだらしいの」

「…」


その時わかった。

妃華は沙世に嫌がらせをしたんだって…


俺達にはケーキはケーキ屋が家まで配達してくれるって話してたんだ…なのにそれは嘘で、本当は沙世に行かせてた。

沙世が家に来てケーキを持ってきたら、俺達に沙世をパシリにしたことがバレるのに…わざわざそんなことした妃華が意味わからねえ…

あいつ…俺をキレさせたいのか…