色恋 〜Colorful Loves〜

「………今宵の月を、ご覧になりましたか?」



誠一郎さまが、唐突にそんなことを言い出した。



「ひどく美しい月なのです」


「ええ、見ましたわ。そこの障子窓から」


「今日は桜も満開で、月明かりに照らされた花は、息を呑むほどです」



私は何も返せなかった。


この窓からは、桜など見えない。



この花街にやって来てから、私は桜木をこの目で見たことは一度もなかった。


春が来ても、手折られた桜の枝を竹筒に活けたものを見るだけ。



「………さぞ美しいのでしょうね」



月光を受けて輝く夜桜を目に浮かべようとしたけれど、もうすっかり忘れてしまっていた。