ようやく動きを止めて振り向くと、髭面は背を向けたまま突っ立ている。
 地を叩くような音に、少し身体をずらして見てみると、髭面の右腕が二の腕辺りからなく、そこから血が音を立てて噴き出していた。
 切断された右腕は、左手で握っている刀の柄を掴んでいる。

 しばらくしてから、どた、と髭面は前のめりに倒れた。
 身体の前面を染めた血が、辺りの土を赤黒く染める。

 どうやら俺の斬り上げが、一瞬速かったらしい。
 奴が振り下ろした腕ごと、胸を斬り裂いていた。

 俺は、ふ、と息をついた。
 斬撃の一瞬前には驚くほど心が凪ぐのに、終わると身体の奥に熾火が燻っているような疼きを感じる。
 人を斬るといつもこうだ。

 俺はしゃがみ込むと、髭面の着物の袖で刀を拭った。

「折角いい気分で酔ってたのによ」

 飲み直す気分でもない。
 女でも抱くか、と、俺は酌婦のいる店へと足を向けた。


*****終わり*****