「いえ、違います。
あたし、上野幸来といいます」
「上野さんのお嬢さん?
朝はありがとうございました」
ニコッと笑う早乙女くんのお母さん。
「二瑚の母の早乙女一子(いちこ)です。
初めまして」
お母さんが一子だから、早乙女くんが二瑚…。
可愛らしいネーミングセンスに、思わず笑った。
「母さん仕事?」
「ええ。
二瑚、あなたはどこかに行ってなさい?」
「は?」
整っている早乙女くんの顔が歪む。
…お母さん、何言っているんですか?
「お父さん色々お仕事忙しいみたいだから。
お父さんの邪魔をしないよう、二瑚はお友達の家にでも行ってきなさい」
早乙女くんの顔が、ますます歪んだ。
でもさっきの歪みとは違う。
さっきはあたし同様、お母さんの言っていることが信じられなくて歪んだんだ。
でも今は…。
何だか、何かに耐えるような…寂しそうな歪みだった。


