「…へー、そうなんだ」




ふっと早乙女くんの顔から、笑みが消えた。

そしてほんの一瞬だけ、寂しそうな笑みを浮かべた。

でもそれは、ほんの一瞬。

すぐに笑顔に戻った。





「じゃ、頑張れよ」

「え?応援してくれるの!?」

「なわけないだろ、ドアホ」






早乙女くんはベッと舌を出すと、スタスタと教室のある本館へ向かって行った。





「早乙女くん!教室わかるの?」

「生憎、俺はアンタみたいに馬鹿じゃない」





最後までひねくれているんだから…。

あたしはその場で、ふっと笑った。






てか、何だったんだろう?

さっき早乙女くんが一瞬見せた、寂しそうな笑みは。

早乙女くんに会って、数時間しか経っていないけど。




彼はいつだって、自信にあふれた笑顔だったはずだ。

それなのに、何であんな寂しそうな笑みを浮かべたんだろう?

あたしが久遠先輩を好きって言ったから?




待て待て、そんなわけない。

早乙女くんはあたしのこと、ずっと馬鹿馬鹿言っているんだよ?

それなのにあたしが久遠先輩が好きって言ったのを寂しく思う?




思うわけない…か。




何でだろ。

何であたしの方が、寂しいって思うんだろう?




あたしは、久遠先輩が好き。

入学式の時案内してもらった時から。

きっと一目惚れ。




年上好きなのに…。

何でこんなにも、年下の早乙女くんが気になっているんだろう?





『キーンコーンカーンコーン』




「うわああ、遅刻するー!」





あたしは疑問を忘れることにした。