俺が退院し、自宅療養だと言われた夜。




「二瑚、起きなさい」



夜中、突然母親に起こされた。



「早く荷物まとめなさい。
この街、出て行くわよ……」

「は?」

「ほら早くしなさい」





状況のわからぬまま、俺は荷物をまとめた。

底知れぬ不安に襲われたけど。

切りたいとか万引きしたいとか言う衝動に襲われたけど。

大丈夫、この包帯に血が滲んでいる限り、俺は切らないし万引きしないと決めたんだ。

精神安定剤を片手に、俺は幼い頃から住んでいた、何の未練もない街を逃げた。






辿り着いた先は、見知らぬマンション。

音を立てないよう室内へ入る。




「ここ、二瑚の部屋にして良いわ。
だから、これ以上父さんと母さんに迷惑かけないで」

「……はい」

「過去のことは誰にも話さないこと。
真面目に学校へも行きなさい。
……あと、もう万引きとかリスカとかしないこと」

「……わかった」




多分、それは無理だ。

また万引きかリスカして、夜逃げする羽目になるだろう。




だったら、深く関わらないようにしよう。

母さんが平然を装って隣の家に挨拶していたけど。

深く関わりたくないから、俺は1人部屋にいた。