運ばれた先は、いつしか俺が入院した病院だった。
再び、あの警察に出会った。
俺は全てを話した。
綿貫沙羅に万引きの存在を聞いたことも。
理由のわからない腹痛と吐き気に襲われ、その衝動で万引きをしたことも。
全て、全て話した。
俺は本物の精神安定剤を渡され、入院することになった。
誰も見舞いのない病室で1人、ぼんやりとしていた。
不思議と腹痛と吐き気は襲ってこない。
ある日のこと。
警察の1人が、果物のセットを持ってきた。
俺の複雑な家庭事情を知って、万引きは罪に問われないこととなった。
というか、父親と母親が殴りこみに行ったらしい。
その上父親の愛人である鏡花さんが、実は有名な財閥の1人娘で、お金にモノを言わせて俺の罪をナシにしてくれた。
嬉しいという気持ちはなかった。
俺に残ったのは、罪悪感だけだった。
俺は果物セットについてきた果物ナイフを手に取り、眺めた。
そしてサラに昔もらった時計を付けていない方の手首に、薄っすら切り傷を入れた。
思えば、この時計もきっと万引きしたものだろう。
そう考えただけで、切りたい衝動に駆られた。
でも、俺がいるのは病院。
すぐに医者や看護師、警察にバレ、俺はその手に包帯を巻いた。
「この包帯、外さない方が良い。
いつか二瑚くんが守りたいって思うほど大事な人に出会って、切りたくないと思うようになるまで外しちゃ駄目だよ。
ここに血が滲んでいるだろう?
これを見て、切りたいと思う衝動を抑えなさい。
万引きをしたいと思う衝動を抑えなさい。
いつか二瑚くんにも大事にしたいと思う人が現れると良いね。
その時に、この包帯を外しなさい」
俺は警察の人の言葉に頷いた。


