家には、見知らぬ女だけがいた。
父さんの新しい愛人だと、一目でわかった。
「もしかして、二瑚くん?」
「……」
「初めまして。
アタシは鏡花よ。
本名は京子(きょうこ)なんだけど、アタシはキャバ嬢だから。
鏡花って源氏名を使っているの、よろしくね」
黙ったまま派手な女を見ていると、鏡花さんは笑った。
「ご飯作ってあげるわね。
どうせイッちゃん帰ってこないだろうし」
「…イッちゃん……?」
「一子のこと。
アタシ一子の元親友だから。
今は二瑚くんのお父さんの愛人よ」
アッサリ愛人と認めた鏡花さんは、俺の前にグラタンを置いた。
「どうぞ。
味に自信はないけどね」
「……いただきます」
久しぶりの誰かの手料理。
サラは夕食を作ってはいたけど、破壊的で。
俺は1人サラダを購入し、いつも食べていた。
まともな食事を食べるのも、久しぶりだった。
時々俺の口の中でカチャカチャ金属音がしたけど。
無我夢中で、グラタンを食べた。


