そして先輩は、早乙女くんの胸ぐらを掴んだ。




「先輩ッ!?」

「なぁ…何が悪いんだよ。
万引きして、何が悪いんだよ……」




先輩の耳に、あたしの声は届いていない。





「別に良いだろ?万引きしても。
少しぐらい万引きしたって、店は困らねぇよ」

「……」




パシッ





早乙女くんが、先輩の手を叩いた。

先輩が痛みに顔を歪め、早乙女くんの胸ぐらから手を離した。





「久遠先輩、この店で万引きするの、初めてじゃないでしょ?」





そう言う早乙女くんの声は、怒っていた。

かなり低くて、よく通る声。



でも腰の辺りで握った手は、震えていた。




あたしは何も言わず、ただその光景を眺めているしかなかった。