その年の夏、お盆の時期に5日間だけ
私は、約一年半ぶりに関西にある実家に帰っていた。


「明後日には東京に戻るから…」

日が沈んで数時間しか経ってない、
まだ蒸し暑い田舎道を、

白いワンピースに足元はローヒールのサンダルをはいて、
電話で話しながら歩いている私の耳に、
まだ元気に鳴く蝉の声が聞こえる。

たぶん、前方に見える林の辺りからだ。

いま私が歩いている道の両側は畑が広がっていて
それに面して建つ一軒の農家の軒先で
風鈴が「ちりん…」と鳴った。

「それとね…アタシ達が付き合ってること、お母さんには話しちゃったよ…
だって、あのとき『そうしょう!』って言ってくれたから」

電話の向こうの大森和也は

「そっか…うん!」



それを聞きながら私は和也の笑顔を思い出していた。

昨年4月、大学に進学し、実家を出て東京で一人暮らしを始めた私は、
それから8ヶ月くらい経った冬に彼と出会った。

付き合い始めてからは半年くらいになる。


かなり年上の彼氏だけど…
その分、いろんなこと知ってて、包容力のある彼が好きだ。

逆に彼から私がどう見えているのか…
それを時々、不安に思うことがある。


出会った頃の彼は

「本当に、いいのか?」って

私が本気で彼に好意を寄せていることを疑っていた。
いまでも完全に信じてくれているのか分からない。

でも、私は和也のことが
そして、彼の「笑顔」が大好きだ。