「希理!」

『えっうわっ!』


気づけば何度も僕の名前を呼んでいたであろう友人の顔が、僕の鼻から握りこぶし一つ分の距離にある。

周りを見渡せば数少ない僕の友人たちがこちらを注目していて、

「何ボーッとしてんだよ、」と笑っているのは
坂上 祐司 ”さかがみ ゆうじ”
中学時代からの親友とよべる存在で、俗に言う爽やかイケメンだ。
成績優秀、スポーツ万能、程よい長さの茶髪。
極め付けに誰にでも優しい彼は女の子に呼び出される所をよく見てきた。


そして隣の席で呆れ顔のニット帽に伊達メガネとヘッドホン常備の(一応女子)
遠野 八雲 ”とおの やくも”
入学当初、クラスメイトからは一匹狼と恐れられたが、今では何故かよく行動を共にするうちの一人だったりする。
トレードマークの誰が見ても目を引く白に近い金髪ショートヘアが人を寄せ付けない理由だと密かに確信している。
あと目付きの悪さもプラスして、だ。


「やーっと気づいた!最近なんかボーッとしてない?」
と、先ほどまで目と鼻の先にあった顔で器用に頬を片方膨らませているのが
土屋 陽毬 ”つちや ひまり”
栗色のふわっとした長い巻き髪に丸くて大きな瞳。
何より雑誌に出てくるモデルのような顔立ちで、よく笑う彼女の愛らしさに顔を赤くするクラスメイトは少なくない。

それを鼻にかけないサバサバした性格ゆえに、見た目からして正反対で変わり者の八雲が親友というポジションを許している理由であったりもする。

そんな、学校内では少し目立った3人と一緒にいる普通の高校2年生。それが僕、
相良 希理 ”さがら きり”
至って平凡で、取り柄と言えば少し少し成績がいいことくらいだし、
趣味は読書や人間観察で面白みに欠けている、と自負している。

一応進学校のここでは3年間クラス替えや席替えというものがない。
たまたま前の席が祐司、隣の席が八雲、その前が陽毬だった事から僕は気づけばこの3人と行動を共にするようになっていた。