俺は剛の話が全て終わる前に走る。
そうだ。色々あり過ぎて忘れてたけど、あの日俺見たよな…

「おい、健!」

「ん?」

「ちょっと来い。」

そう言って屋上に向かう。


「なんだよルイ。」

「お前、やっぱさきのこと知ってるよな?」

「いや、そりゃー知ってるよ。」

「さきが記憶をなくした理由。」

「は?なんだよそれ。」

「まだとぼけんのかよ!

さきが2カ月も休む前、
たまたま学校に残ってたらお前らが話してるの見てけど、先生に邪魔されてお前の話聞けなかったんだ。
何してたんだよ。」

「な、なんでそれ…」

「なぁ、なにがあったんだよ。」

「実は…俺がさきのこと好きなの知ってるよな?」

「あぁ、もちろん。」

「俺らさぁ、さきを惚れさせようと超必死だったじゃん?

それでまあ、顔も性格もルックスもお前が俺の何倍も良くて、さきはお前を選んだ。

でもさ、俺もいさぎよく諦めつかなくてさ、あいつの記憶塗り替えれたらなぁーなんて思ってて。

まぁ、そんなことできないんだけどさ。

俺の気持ちだけでも伝えたくてあの日告った。
それで、当たり前だけど振られてさぁ、
あいつ慰めてくれてたんだけど、
泣きすぎてフラついちゃって、
そしたら俺階段から落ちちゃって、
あいつ俺を助けようと一緒に落ちて、
あいつの事守ったんだけど
階段から落ちた時頭打ったみたいで、
病院行ったら…
記憶喪失だって。

でもさ、
俺そんとき
さきの記憶塗り替えればイイんだ
って思っちゃってさ。
俺、最低だな。」

「…で、なんてふきこんだんだよ。」

「えっと…
さきの名前、
俺の名前、
さきの家族の事、
高校の事、
学年、
組…
で、俺がさきの彼氏だって…」

「いや、おかしいだろ?
なんでその流れでお前が彼氏になんだよ?
彼氏は俺だろ?」

「俺だって、罪悪感はあったんだ!
でもさきが…」

「さきのせいにすんのかよ?!」

「違う!
さきが俺の言う事真剣に信じてくれてたから…」

なんだよそれ。

さきが信じるなら嘘教えてもいいのかよっ。

って、気持ちを抑えて俺は冷静に、

「それ以外に何吹き込んだよ。」

「えっと…あっ。
あの日…
さきが死んだ4日前。
その日俺ら一緒にいて、
さきが
『あたしって、記憶なくす前どんな子だったの?』
って、言われて…
『さきは…たらし…だった。』
って…」
「はぁー?!
お前最低だな。
さきが一途だってことぐらい
俺らが一番知ってんだろ?」

健が…
こんなやつだとは思ってもなかった…

「でも…付き合ってるお前らを引き離したくて…。」

「で、さきは?
さきはなんて言ったんだよっ!」


『そうなんだ。あたしって最低だね。』って。だから、

『ちゃんと別れをさきから切り出した方がいいよ。そいつのアド送るな。』
って言って、
お前が振られた。」

だからか、
今考えるとおかしい。

だってあの時のさきの顔…

唇を固く結んで、涙堪えてる顔。

なんであん時気づいてやれなかったんだろう。

いつも、俺が辛い時
支えてくれてたのに…

「それからさき、時々…
いや、よく悲しそうな顔してたんだ。
そんなさきを励まそうと、
ホラー映画見てたんだ。
そしたら、
さきが頭を抱えて唸りだして…。」

ホラー映画…?

「なんてホラー映画?」

「たしか…人形からの復讐。」

「それ…」

それは、さきの誕生日にみた映画だ。

「え?」

「いや…で?」

「それで、さきが
『ルイに謝らなきゃ』
って言って走ったんだ。
でも、
今の関係を壊したくなくて、
俺はさきを追いかけた。

『俺はお前が好きだ!俺はさきしかいないんだ』
って言った。
けど、さきは…
『健くんの事好きだよ?
でも、それは友達としてだからあたしの好きな人は…
大好きな人はルイだから。』

って、そんなの最初からわかってた。
でも、さきの口から言われると辛くて…

俺つい引っ張ってた手離しちゃって、
そしたらさきがよろめいて道路に出て…
トラックと一緒に視界から消えたんだ。

横見るとさきが血だらけで、
でも少し意識があって最後に
『ルイは、もぅ1人でも大丈夫大丈夫。笑って笑って。
あたしは、ルイの笑顔が大好きだから。』
って。」

なんで…俺、
さきを守れなかったんだ…

いつも俺が困ってたらあいつ
『大丈夫大丈夫、笑って笑って。』

って、励ましてくれてたのに…。