「あれー?さっきは居なかったのに…」
「廊下で雨降ってるの見てたらついトリップしちゃってさー」
「何ですかそれ?」
美香は話し掛けられた後輩に下らない嘘をついた。
その後輩は本気にしているのかしてないのか、特に気にした様子もなく笑っていた。
「じゃ、お疲れ様でーす」
「お疲れー」
挨拶を交わすと後輩はさっさと帰ってしまった。
靴箱の先は真っ暗で何も見えないに近い。
だけど雨の降る音は確実に聞こえ、先に行く生徒は傘をさして行く。
今まで美香が経験してきた演技とは違い、命のかかったアドリブ込みの演技。
美香の心に恐怖がないと言えば嘘になる。
それでも美香は
「やってやろうじゃん」
笑みを浮かべ独り言のように呟いた。

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