今宵、闇に堕ちようか


『ラインっ』という音で目が覚める。スマホで時間を確認すると、どうやら2時間ほど眠っていたらしい。
 車の椅子を元に戻すと、ラインを開いた。

 さえことのトーク画面を見ると、ここから未読メッセージという表示がでていた。
『私は昔、会いたいと思ったときに動かなかったことで、会いたい人に会えなかった過去があるの。だから院長は会いたいって思う人がいるなら、会いにいったほうがいいよ。会わないと後悔するから』
 後悔してるよ、いま。激しく、な。

 せっかくのチャンスを逃したんだから。
 後悔するから、のコメントから約2時間後のつい数秒前に『会いたいって私?』とラインが入ってきた。
 おそっ。理解すんのに、時間がかかりすぎだろ。

『もーいい』と俺は返事を打つ。夜中だというのに、さえこはラインを読んだようだ。

『てっきり元カノとか、元嫁に会いたいってことなのかと思って』
 元カノにも、元嫁にも会いたくねえし。

『もういい』
『ごめんさい』とさえこから返事がきた。

 まったく、おもしろい女だ。あの流れで、自分以外の違う女に会いたいってふつう入れるか?
 俺はスマホを助手席に置くと、クスッと笑みがこぼれた。

「ふつうは勘違いしねえよな」と独り言をこぼすと、車のエンジンをかけた。