カタカタカタカタカタ。



カタカタカタカタ。



カタカタカタ。




薄暗い研究室にキーボードを叩く音が響く。


大学を卒業して、数ある内定の中から選んだ地味で静かな俺の職場。


特に人づきあいが好きじゃない俺にとっては天国ともいえる環境。


ここでは一人一部屋自室が与えられ、


それぞれの研究者が日々、自分の研究に打ち込める。


ある奴は開発。


ある奴は実験。


ある奴は実証。


と、最新の研究機材が揃っている中で、ジャンルに縛られることなく自分の研究ができる。


俺は大学の専攻だった教授に誘われここに来た。


俺の専攻は新薬の開発と、


病理細胞の消滅と免疫の復元。


未だ未知と研究の促進が促されている。


「やりたいことに打ち込める環境。」


それがここに決めた理由。


今のところ何の不満もない。


研究者として最高の環境だと思う。




デスクの上にある時計に目を向けると、時刻は午後4時。


「ふー。」


仕事中だけかけている眼鏡を外して、


飲みかけのブラックコーヒーを飲み干した。


二日間、向かいっぱなしだったPC。


バックアップを取ってから電源を落とした。


暖かくなってきた、とは言っても季節は早春の3月。


つけっ放しだったヒーターのスイッチもオフにして、


白衣を脱いで帰り支度をしていると、



「稜。…あれ、帰んのー?」



ノックもせず、ドアを開けて顔を覗かせた奴。



チッ。



俺はそいつをチラリとも見ずに舌打ちをした。