時は流れ、あの約束から10年が経った。

「……陽花音〜(あかね)!」

「はーい!」

「そろそろピアノの時間でしょ!
準備しなさーい!!」

「はーい!今行くー!」

陽花音は、俺と葵の一人娘。

5年前、葵が夢を叶えて看護師になった頃、
授かった命。

「……千洋、今日あたし夜勤だから
お迎えよろしくね。」

葵が、俺のいるリビングに来て言った。

「おう。」

「あたしがいないからって
陽花音に夜更かしさせないでね?」

ぎく。

こういう時の葵は一番怖い。

だって俺は陽花音に弱いし、
葵が夜勤の時は、
一緒に同じベッドで寝るぐらい
メロメロなのだ。

俺が見たいテレビがある時は
大抵隣で見ているし、
それで夜ふかしということも
しばしばあるのだ。

「……へーい。」

俺は返事をしたが、守るかどうかは
その時になってみないと解らないだろう。

「……陽花音が変なこと覚えたら、
千洋のせいね?」

「……ちょいまち。何やそれ。」

「知ってるのよ、深夜にテレビ見てるの。」

「……ちぇ、なんや。バレとったんかいな。」

「当たり前でしょ。」

葵はそう言ってリビングを出ていった。

(……あいつの目は節穴か?)と思う俺だった。