時空ホテル

…見えますか?

ええ…そうです…かなりシャンデリアも床も先程に比べるとずいぶん綺麗でしょう?

そうです…今、貴方様がご覧になっているのは34年前の当ホテルのエントランスです…

お客様のファッションもだいぶ違いますね…

あそこです… 今、お客様のスーツケースを運んでいるベルボーイは若い時の自分です。 頭の毛もフサフサですし…お腹回りもスッキリで中々の男前でしょ?…

まぁいいです…私にもあんな時代があったのです…貴方様にも今に解ります…いいんですよ…慰めて頂かなくても…いいんですって!!!

…あそこです! 私の後ろのタクシー!! そのリアトランクに顔を埋めているのが…彼《しーさん》です。

…何をしているのだか?? あ〜あ…
またお客様のスーツケースを誤って倒してキズだらけにしてしまってますね…

あ〜あ見てられない…かなり狼狽してますね…また何故か彼は慌てると足がもつれる様にチョコチョコ歩く…あれが更にお客様の勘に障るのでしょうね…

お客様をまつ格好もだらしない…いつも肩に力が入っているのか? 肘がまっすぐ伸びない…その癖…妙に姿勢がまっすぐで硬い…

そんな《しーさん》はやはり…同僚からは評判が悪かったですね… ホテルマンには向いていないと…みんなから言われていましたし…当たりも強かったですね…

ほら…黒服の《トンビさん》に連れて行かれてしまいました…あの人は元暴走族のリーダーでしたから…気が短い…

?そんな人がサービス業が務まるのかって?ですって??

意外と多いのですよ…割とこの仕事…キツイので根性がいるのと…負けん気が強い方が保ったりしますからね…

真面目で常識の塊みたいな顔をしている方が多いでしょ? でも実はトッポい方が多いのです。

私もよく食堂の裏で叱られましたよ。 怖かったですね… 今ではホテルを退職して会社を興してお客様としてたまに起こしになりますが… 未だに怖いです。

ところで《しーさん》あんな状態でよく30年以上も続いたとお思いですか? もっともな話ですね…

ただ…《しーさん》に転機が訪れるのは…もう少し先の話です…転機と言っても《しーさん》は変わらない…変わったのは回りなのですよ…

彼がこのホテルに居られる理由…一つはこの変化です…あと一つは…

彼が私の直属の上司《総支配人》のお気に入りなのですよ… ただ《しーさん》自体は《総支配人》に気に入られているなんて思ってもいないのです。

かく言う私は《しーさん》をどう思っているか?…割と好きなんですよね…こう見えて…

彼はいつも腰が低い…そして真面目です…そして私が彼を1番好きな理由…それは…彼は自分の仕事…つまりベルボーイの仕事が大好きでたまらないって事なのです。

ただ…そう思える様になるのは…あの転機からです。 そう私も変えられた1人なのですよ…