いらっしゃいませ。 当ホテルにようこそ…ご予約はされていますか?

……? ああ〜! お話は総支配人から伺っていますよ。 今度、特別枠でアルバイトに採用が決まった方ですね。

始めまして、当ホテルの支配人の《宗》です。 以後お見知り置きを…私の事は《宗》と呼んで下さい。

何故って? ああ…このホテルには総支配人と支配人がいましてね…わたしの名前は《宗》ですから宗支配人と呼ばれるとややこしいですから…

貴方様はもうすぐ私達の同僚と成られますが研修中はお客様として扱う様にいい使わされております。

貴方様はなんせ特別枠ですから、先ずはお客様の目線で当ホテルをご見学頂きたいと存じます。 どうぞおくつろぎ下さいませ…

早速ですが…
チェックインをして頂きたいと…
えっ? 何もそこまでしなくてもですって?
いえいえ…貴方様はお客様ですし、チェックインは何よりも大切な仕事ですから…感じて見て欲しいと存じます。 よろしいでしょうか?

チェックインの前にお荷物をお運びさせて頂きますが…えっ? 荷物くらい自分が持つと…

まぁ…それもお客様の自由ですが…ホテルにはベルボーイと呼ばれる到着したお客様を1番にご案内する係の者がいます。 その仕事ぶりをご覧頂く為にも1度是非に…

そんなつまらない役などどうでも良いと言う顔をされている様ですが…

確かに、ベルボーイは名前の通り、ベルで呼び出されお客様の荷物を運ぶと言う仕事です。

ホテルの顔と治安を象徴する彼らはサービスの登竜門で、若くて見た目の良い力持ちの新人が当てられる事が多いです。

…??
では? あそこにいるベルボーイは?
と言いたいのですね…

さすが…特別枠でいらっしゃる。
よくお気付きです。 彼は当ホテルで1番キャリアの長いベルボーイです。 私と同期入社の今年54歳…とてもボーイと呼べない年齢ですが…

チーフ? いやいや…ここだけの話ですが…1番仕事が出来ないと言って良いでしょう。

なんで? そんな話をするかって?
そこは貴方様はお客様の前に研修生ですので、悪い見本も見てこのホテルを良い方向に導いて下さらないとなりません。

ならば…そんな従業員のクビをなぜ切らないのか?

優しい顔立ちと見ましたが…意外と手厳しいのですね… 本採用の暁には出来ればお手柔らかにお願いたいと思います。

確かに…貴方様の言う事は正論です。
おっしゃる通りなのですが…彼には当方経営陣も考えあぐねている限りなのですよ…

そんな彼…《しーさん》の物語を先ずは見て頂きましょうか…それでご意見を賜わりたいと思いますが…如何でしょうか?

申し遅れました…このホテルは時空を超えられるホテルでして…私の指パッチン一つで、目の前に広がる風景の過去が見られます。 まぁ…過去ですから…見られるだけです。

私達はその風景の中で、幽霊の様な存在でして、何も出来ません。

未来は見れるのかって?!
そんなものは否が応でもこれから時間が過ぎれば見られますし…つまらないでしょう!!?

…何か納得されてない様ですが…まぁ貴方様はお若い…未来が見れる恐ろしさとつまらなさは解らない方が身の為だと老婆心ながらご忠告申し上げます…

では…パッチン!!《宗の指の音》