しかし、一つだけ奇妙な事があった。
葵ちゃんだけは目が合うと普通に挨拶してくれていた。

彼女はスクールカースト上位者であるはずなのに、
なんなら普通に話しかけてくるのだ。

どうやら彼女は当たり障りなくみんなと喋ってはいるが不思議なことにグループの輪には入ろうとしていなかった。
話しかけられれば話すが取り巻き達が集まってくるといつの間にかいなくなり、単独行動を取っている。

部活動にも入っておらず放課後は一目散に帰っていく。

『うわ、やっばぁ』

葵ちゃんが箒を持ちながらスマホを眺め呟いた。
思わず視線を向けると目が合った。

『あ、あのさぁ……』

葵ちゃんの言いたいことが伝わってきた。
最早押し付けられるのは慣れっこだった。
ただ葵ちゃんだけはそんなことないんだって思っていただけに、いつもよりも胸が痛かった。

『掃除、私やっておくね……』
『まじでぇ!ごめんね!ありがと!』
『……』
『神様、高木様!今度なんか奢るからぁ!じゃーねぇっ』

バタバタと葵ちゃんは去っていった。

葵ちゃんに勝手に好意をもっていた私は自分の愚かさを嘆いた。
人を信じるから辛くなるんだ。
最初から距離を取って、相手になんの感情も抱かなければこんなに傷つくことなんてなかったのに。

そんなこととっくの昔に気付いてたことだったのに。
なんで期待しちゃったんだろう。

こんな自分が惨めで大嫌い。
私でさえ嫌いなんだから、誰かが好いてくれる訳がないのに。