しかし彼女は可笑しそうにケラケラ笑った。

『あはは!正直で宜しぃっ』
『……』

私の愛想のない対応に気を悪くした様子も無かった。

『ねぇ、高木さん、悪いんだけど暇潰しに付き合って貰えなぁい?』
『え』
『今更体育出んのめんどくさいしぃ
でも3限までかなり時間あるしぃ』
『……』

こんなことを頼まれたのは初めての経験で言葉が出てこない。
何て言えば良いのか必死に頭を働かせた。
結果、コクコクと頭を上下に振る。
私の頭のコンピューターはポンコツだったみたい。


それから色々お喋りをした。
といっても私に気のきいたことが言えるほどのコミュニケーション能力もなく、相づちを打つことの方が圧倒的に多かったが。
葵ちゃんの話しは私の知らない世界ばかりでキラキラしていて楽しかった。
暖かい気持ちで胸がほわほわする。
こんな時間がずっと続けばいいのに。
心の底からそう思った。


そんなに時間が経っていないはずなのに廊下がガヤガヤし出した。
いつの間にか二限が終わり、クラスメイトたちが戻ってきたのだ。
楽しいとこんなにも時間の流れが早いのかと驚いた。
同時にもう終わりなのかと切なくなった。

この時間は彼女にとってはただの暇潰しだったし、私なんかと積極的に話したい人間なんているわけないのだから。


『あ、あおじゃん!体育サボりやがったなー!』
『おー!おはよぉ』

1軍女子達が葵ちゃんに群がる。
私はそっと彼女のそばを離れた。

葵ちゃんにきっと迷惑だろうと思ったから。

どん

廊下に出たときに男子とぶつかり尻餅をついた。

『あ、ごめん、大丈夫?』
『ぁ……』

はいと言おうと顔をあげるとぶつかった相手の八重歯がキラリと光った気がした。
深沢拓海――
咄嗟に私は彼の手をはね除けてしまった。
気まずさと胸の奥にしまっていた感情の鍵が壊れかけ、居てもたってもいられなくて慌ててその場を後にした。


ホロ苦い思い出が私の心を大きく揺さぶる――