涼介さんはパリで料理修行をしていたらしい。
だからか大抵のものは作れるみたいで葵ちゃんがメニューにない料理を頼んでも文句を言いながらも作ってくれた。

口は悪いけど、悪い人じゃなさそうだ。

『ね、高木ぃ。前から気になってたんだけどさ』
『ん?』
『なんで高木ってぇ、おしゃれしないのぉ?』
『え…』
『いやさ、女って大体おしゃれに興味あるじゃーん?』
『……』
『ま、興味ないならしないよねぇ。人それぞれ!みんな違ってみんな良い!』
『お前、ほんと雑だな』
『うっさい』

おしゃれに興味がないわけじゃない。
わたしみたいなデブでブスが何をしても痛いだけ。
だからおしゃれに着飾ることを諦めた。

『あ、あとさぁ、高木ってぇ人とお喋りするの嫌いなのぉ?』
『え』
『思ったんだけどぉ、あたしばっか喋ってたよねぇ』
『葵がうるせーから喋る隙間ねーんじゃねーの』
『まじでぇ!?』
『ぁ……いや、そんな…ことない』
『だよねぇっ、良かったぁ』
『気ぃ使わせてんじゃん』
『そんなことないでしょ!?』
『うん』
『ほらぁ!』
『そーかよ』

『でもさぁ、あたしも人のこと言えないんだけどぉ、高木はあんまり人と関わろうとしないじゃん?なんでなのかなぁって最近思ってたのぉ』
『……』
『あたしはねぇ、学校という閉鎖空間に興味が湧かなくてさぁ。あの狭い世界の中で自分の王国を作ろうとする人たちに関わるのがめんどくさいんだぁ』
『……』
『スクールカーストってやつぅ?どーでもいいよねぇ。私、本当は高校行かずに美容師になるつもりだったのぉ。だけどてんちょーが高校は行きなさいってゆうからしょうがなくねぇ』
『……』
『だからぁ学校には一応行ってるんだけどぉ、早く帰って店に出たくてしょうがないんだぁ。そうするとさ、友達付き合いとかに参加するのが煩わしいんだよねぇ』
『……』
『一緒にトイレ行こぉとかお弁当食べよぉとか、誰が好きとか嫌いとかぁ。なんか窮屈なんだよねぇ。狭いんだよねぇ』
『……』
『でも高木ってぇ、そういうの無いから私的に付き合いやすいなぁって思ってたのぉ』
『おめー、すげぇ喋るな』
『りょーちん黙れぇ』
『…ぁ、あのね…』

私は私なりの言葉で少しずつ話始めた。
葵ちゃんが腹をわって話してくれたことが嬉しかったから。
今まで臆病だったせいで葵ちゃんとちゃんと喋れない自分がイヤだった。

期待しても良いのかもしれない。
葵ちゃんに嫌われるかもしれない。

怖いけど信じたい気持ちが勝っていた。
人間は愚かな生き物だ。

優しい言葉を投げ掛けられただけで、すぐに痛みを忘れて心を開いてしまう。