【完結】セ・ン・セ・イ

瀬戸朱莉は、乱れのない足取りで淡々と自宅への道を歩いた。

寄り道も、余所見すらせずに。


気付けば通い慣れた彼女の家のごく近くまで来てしまっていて、何をしているんだと自分をたき付ける。

ただ見ているだけなのか?

ここまで黙って着いて来て、彼女が家に入るのを見届けたらそれで終わりなのか?


呼び止めるべきだ。

声をかけるべきだ。

話を。


「……!」


目的地寸前、最後の角を曲がる直前になって、唐突に彼女が立ち止まった。

危うく漏れそうになった声を飲み込んで、不甲斐ないことに俺は、咄嗟に電柱の後ろへ隠れていた。


こんなところに隠れたところで丸見えで、見つかったら間抜け極まりない。

だけど今度もやはり、彼女が立ち止まったのは俺の気配に気付いたせいではなかった。


鞄に手を入れる。

そこから再び手が抜かれた時、彼女の手に握られていたのは折り畳みの日傘だった。

のらりと傘を開く彼女の背中から、憂鬱が、滲み出た。


それが。

それすらも。

俺がただの『ハイソサエティアイテム』くらいに思っていたその日傘すらも、お前の枷なのか。


そう思った瞬間――、外してやりたいと切に願ったはずの彼女の枷より先に、俺自身の、枷が外れた。


怯んでいた足が、手が、俺の意思を越えたところで、勝手に動き出した。

走り、追いつく。

彼女が角を曲がる前に。

声すらかけずにその細い腕を――掴んだ。