歓楽街に着いたが、未成年には無縁のエリアだ、問題のホストクラブの場所がわからない。

『どこだろう…』

《虎彦!聞こえるか虎彦!》

《…》

『だめか…』

以前、詩乃がノイズに飲まれかけた時もトークが途切れた。
花子さんの強力なノイズで虎彦とのトークが遮断されているのだろうか…

『あ!ゆいりくん!あそこに虎彦さんが浮いてる!』

詩乃の指差す方向に虎彦がフヨフヨと浮いている。
どうやらもう終わったようだ。

『とらひこぉぉぉ!』

『唯里!逃げろ!!』

『へ?』

次の瞬間、ビルの隙間から黒い影…ノイズが伸びて虎彦を捕らえた。

『虎彦!!』

『はよ逃げろ唯里!こいつヤバっ……』

虎彦がビルの隙間に引きずり込まれる。

『虎彦!!』

『ゆいりくん!』

『助けねぇと!!』

『ダメ!逃げないと!』

『虎彦が!』

『バインド!』

『ぐっ…詩乃!』

『ゴメン!でも…』

『とらひこぉぉぉ!』

俺の体から黒い靄が吹き出す。
ノイズだ。
やはり俺はホルダーになっていたようだ。

『ゆいりくんダメ!落ち着いて!』

『落ち着いてられるかぁぁぁ!』

パンッ!
甲高い音と共に詩乃のバインドが弾ける。

『ゆいりくん!?』

『虎彦!』

虎彦が消えたビルの隙間へと急ぐ。

『ゆいりくん!』

ビルの隙間を抜けると数人の黒服が倒れていた。

(花子さんか!?)

「またセカンドか」

路地の奥、暗がりの中に人影。
手に何かを持って引きずっている。

!?
『花子さん!!』

引きずられているのは花子さんだった。

『虎彦!虎彦はどこだ!?』

「誰だそれ?」

男の顔がわずかに見えた。
防犯カメラの男だ。
薄気味悪い笑いを浮かべている。

『お前…ホルダーか?』

「おう、まぁな」

『虎彦…もう一人セカンドがいただろ』

「あ〜、喰った」

『きさまっ!』

『ゆいりくん!』

『詩乃!来るな!』

「ゆいり?しの?」

『バインド!』

「うお!?なんだこれ…」

『ファーストにバインドがきいた?』

『その人のノイズにバインドをかけたの!』

『そんなことできたのか、頼れるね詩乃』

『花子さんに通じたから!』

『あの時か…』

「なぁ?おめぇらだろ?純流の玩具って」

『純流!?お前純流の仲間か!?』

「仲間ではないな、ビジネスパートナーってとこか?」

『ビジネス?何言ってんだお前!?』

「しのちゃん?だっけか?これ、解いてくんねぇ?」

『嫌です!花子さんを離してください!』

「花子?この女のこと?」

『そうです!離して!』

「離すも何も動けねぇし俺」

『…』

『詩乃、解くなよ?』

『わかってる…』

「めんどくせぇなぁ、じゃぁ自分で解くよ」

『ハッタリ…だろ?』

「さぁね」

男はノイズを引っ込めた。

『あ…』

『しまった!』

男のノイズを縛っていた詩乃のバインドが解けた。

「しのちゃん邪魔」

再び男からノイズが吹き出したかと思うと、俺の頬をかすめて背後の詩乃を襲う。

『ひゃっ!』

『詩乃!?』

振り返った瞬間、今度は俺の首に男のノイズが絡みつく。

「あめぇよクソガキ」

(やべぇ…)

「おめぇらには手は出さねぇよ、純流に怒られちゃうからなぁ」

『俺も…怒っちゃう…ぞ?』

「調子乗んなよクソガキ?うっかり喰っちま…っうがっ!!」

「あめぇよクソガキ…ニンニン」

『花子さん!』

花子さんの強烈な一撃が男の背中に炸裂。

「てめ…」

「喋るな、口が臭ぇんだよ」

「っがっ!」

花子さんのノイズが男をボロ雑巾のように何度も打ち付ける。
地獄絵図だ。

『花子さん…死んじゃいますよ?』

「問題ありません、殺さない程度にやってます」

「クソッ!てめぇら……ゴホッ!…オェ…!」

男が黒い塊を吐き出した。
一つ、二つと吐き出していく。

「佐和田様と虎彦様です、回収して下さい」

『え?あ…あぁ、これそうなんだ…』

花子さんの暴行はまだ続いている。
やりすぎだ。

『花子さん!マジでやりすぎだって!』

「まだ他の方を吐き出してません」

『でもそれ以上やったら死んじまうって!』

「構いません、殺して腹掻っ捌いて引きずり出してやります」

『そこまでじゃ花子!』

「環様!?」

『バァさん!?』

『私が呼んだの』

『詩乃ナイス…』

『そやつの中にはもう誰の気配もない…』

「!?」

『残念じゃが…』

「私がもう少し早く……」

花子さんが大粒の涙を流し泣き崩れた。

(そうだ…俺達がもっと早く見つけていれば…)

『お主らはようやった…自分を責めるな…』

花子さんはまだ泣いている…