セカンドになって二週間。
最近、横峰とよく会う。
横峰が言うには、フォローし合うと縁が結ばれ、無意識のうちに引き合うのだそうだ。

(変なのとフォローすると大変そうだな…気をつけよ…)

《そうだよぉ、気をつけないとだよぉ?》

『うほっ』
《横峰さん!?聞こえてたの!?》

《慣れないうちは考えてることが流れやすいから仕方ないよ》

《ぬぅ…便利なんだが不便だな…》

《すぐに慣れるよ》

クスクスと笑われているような気がする。

《水辺君は今どこにいるの?》

《自分の部屋だよ》

《じゃぁちょっと付き合ってもらえないかな?》

《ん?いいけど?どうせヒマだし》

《じゃぁ駅前に5秒後に待ち合わせでどうかな?》

《5秒って…急いでも20分はかかるよ…》

《水辺君忘れてる?私達セカンドだよ?》

《へ?》

《駅前をイメージ!》

(駅前…駅前…駅前…)

フッと何かに吸い込まれるような感覚がしたかと思うと、そこはもう駅前だった。

『ね?5秒で来れたでしょ?』

いつの間にか隣に横峰かいる。

『マジか…セカンドすげぇぇぇ!!!』

『具体的にイメージできれば大抵のことはできるみたいだよ』

『なんと!』

俺は横峰に向かって両手を突き出し、強くイメージした。

(横峰の胸にさわる!横峰の胸にさわる!!横峰の胸にさわる!!!)

しかしすり抜けた。

『それはムリ…』

『クソっ…』

自分以外の何かに“物理的に干渉”することはできないらしい。
なんとももどかしい。

『んで横峰さん?これからどこ行くの?』

『あ、うん、ここが目的地』

『へ?』

『人探し、もう半年以上探してるの、ここなら人も多いし見つかるかなって…』

『なるほどね…よし、俺も手伝うよ』

『え?』

『ん?そのために呼んだんじゃないの?』

『あ…いや、一人じゃ寂しかったから…』

『あ~、そかそか、まぁでも手伝うよ、そのほうが確率も高くなるでしょ?』

『うん…ありがと…』

『いえいえ、で?その人の特徴は?』

『えっと、記憶を転送するね』

『え?そんなことできんの?』

『フォローしてるとできるの』

『フォロー便利すぎ…ってほどでもないか、ケータイで同じことできてたもんな』

『そうだね、感覚的には的を射てる例えだと思う』

すると、頭の中に中年男性の顔が浮かんだ。
整った顔立ちでどこか気品のようなものすら感じる。

『この人?お父さんかな?』

『んっと…』

『まさか彼氏?』

『違う!!』

『!?…ご…ごめん…』
(なんか今…一瞬だけど…横峰が黒く濁って見えたような…)

『ごめんなさい…』

『いや、いいよ、とにかくこの人が通らないか見てればいいんだね?』

『うん…』

それから横峰は一言も話さずに人の流れを見つめていた。
俺も黙ってそうした。

いつの間にか夜も深くなり、人の流れもまばらになってきた。

『次で終電だね横峰さん』

『あ…もうそんな時間!?』

『集中してたからねぇ横峰さん』

『ごめん…』

『いやいや、どうせヒマだもん』

『ごめんね、どうしても見つけたくて』

『いいって』

終電も過ぎ、いよいよ誰もいなくなった。

『今日はもう終わりかな』

『うん…』

『よし!明日も探そう!明日ダメでも明後日も探せばいい!』

『え?でも…水辺君にそこまで付き合ってもらうのは悪いよ…』

『だ〜いじょぶ!どうせ目的もなく漂ってるだけだから!』

『でも…』

『こうやって死後の世界で再会したのも何かの縁、気にすんなよ』

『うん…ありがと…』

『じゃぁ明日の始発前にここで!でいいかな?』

『うん』

『じゃ今日は解散!』

『あ…水辺君』

『ん?』

『ありがと…』

『いえいえ♪』

『あの人ね…』

『うん?』

『私を殺した人なの…』

『え?』

そう言うと、悲しげな笑顔のまま横峰は消えた。
気配を感じないので近くにはいないようだ。

(殺した…?横峰は殺された…?そう言えば死んだのは知ってたけど理由は知らなかった…マジかよ…)

俺は思い出していた。
横峰が黒く濁って見えたあの瞬間を。