『ここが俺の事故現場』

『ここ…私もよく通ってた』

『そりゃご近所さんだからね』

『あ…お花…』

歩行者用信号機の足元に真新しい花が手向けられている。

(母さん…かな?)

詩乃が花に向かって手を合わせている。

『しのちゃん…それ、俺への花なんですけど?』

『うん…』

『まぁ…ありがと♪』

事故の記憶はない。
気がつくと俺は自分の亡骸を見下ろしていた。

あの時、俺は赤信号で立ち止まっていた。
信号が青になった記憶はない。

(赤のまま?歩道に車が突っ込んできたのか?それとも記憶にないだけで青になった?俺が赤のままフラフラ交差点に入ったとか?)

『しのちゃん、答えたくなかったら答えなくていいんだけどさ』

『うん?』

『しのちゃんは…その…自分が死んだ時の記憶って…ある?』

『…ある』

『そっか…ごめんね変なこと聞いて』

『大丈夫、もう思い出してもノイズは出ないから』

『そっか…しのちゃんは前に進んでるんだね』

『ゆいりくんのおかげ…だよ?』

『だといいけど』

俺のセカンドライフはここから始まった。
ここで純流さんと出会ったあの日から。
だけど俺の時間はまだあの日のまま止まっている。

(未練…なのかな…)

未練は俺を縛り、やがてゼロに…

(大丈夫、俺にはしのちゃんがいる)
『帰ろうかしのちゃん』

『聞かないの?』

『ん?』

『私が死んだ時のこと…』

『辛いでしょ?話したくなった時でいいよ』

『今だよ…』

『うん?』

『今、話したい』

『そっか、じゃ聞く』

『直接話すのは辛いから…リンクして…』

『わかった』

詩乃とのリンクの時、いつも立ち入れない場所がある。
きっとそこが”その記憶“なのだろう。
意識が同調してても立ち入れないということは、詩乃自身がその記憶に蓋をしているのだろう。

(立ち入っていいのかな…なんか罪悪感)