就業時間も終わったので、頭は仕事モードなまま、政義さんへ勤務表を提出する。


「さて、仕事終わったね。これからどうする?」


うれしそうに目を輝かせながら、政義さんはサインをして、勤務表を返してくれた。


「どうするって言われても、自宅へ帰ります」


自分の席に戻り、帰る支度をして、パソコンの電源を落とした。


「せっかく帰るんだったらさ、寄り道しようよ。いいお店が見つかったんだけど、一緒に行かない?」


「行きません」


「なんで〜。せっかくむつみチャンのためを思って見つけたお店なんだよ。食事のあとはもちろん、楽しいことしちゃおう。ハロウィンだし、とっておきの仮装しちゃうってどう? むつみチャンに絶対似合う洋服見つけちゃったんだ。きっといい夜になるよ〜」


「だから、行きませんって。第一、私、政義さんのこと、何も思ってないですから」


「何、言ってるの?」


「お疲れ様でした。お先に失礼します」


帰ろうとしていたところを政義さんが後ろから腕をひっぱり引き止められた。


「まだ話、終わってないんだけど」


「話すこと、ありませんから。離してください」


振りほどこうとすればするほど、政義さんの握力を強めてくる。

穏やかだったメガネの奥底の目がぎらりと光り、にらみをきかせている。


「むつみチャン、どういう状況か、わかって言ってるの?」


「だから、政義さんのことは好きでも嫌いでもないですから」


「好きじゃないって。ボクはむつみチャンのこと、好きだって言ったじゃないか」


「政義さん、私には政宗さんが……」


言いかけた途端、強く腕を引っ張ると、政義さんは私を壁に押し付けた。