顔だけをドアの方に向ければ、クローゼットへと向かう征太郎の姿があった。

シャワーでも浴びてきたのか、どこかすっきりとした顔で、クローゼットの中に用意されたジャケットに手を伸ばす。
おそらく、あらかじめ部屋の中に秘書が着替えを用意していたのだろう。
昨日着ていたものとは違う、清潔感の漂う濃紺のストライプのスーツに、ライトブルーのネクタイ。

「こんな時間から、仕事に行くの?」

帰宅するだけにしてはフォーマル過ぎる服装に、思わず声をかければ、征太郎はこちらに視線を向けた。

「悪い、起こしたか?」
「いいえ、少し前に起きちゃって。」
「眠れないのか?」

首を傾げながら、こちらへと近づいてくる。
ジャケットは再びクローゼットへと戻されたようだ。
ベッドの端、先程までと同じ位置に再び浅く腰掛けると、私の顔をのぞき込んでくる。
急に距離が近くなったことで、押し倒された時の情景が脳裏にパッと浮かぶ。
少しだけ緊張して胸元を覆うシーツをぎゅっと掴み直せば、征太郎がフッと小さな笑いを漏らした。

「心配しなくても、何もしない。」
「いや、そういうつもりでは。」
「まさか、あんな風に恐がられるとは、予想外だった。」
「…す、すみません。」

私自身も予想外だった。
あんな風に自分がなるなんて。