一度重なった唇はそのまま離れることはなく、キスはどんどんと熱を帯びてゆく。
彼女の唇の端から苦しげに吐息が漏れる度にキスは深くなり、二人とも我を忘れたように舌を絡ませた。

彼女に口づける度に知るのは、抑えきれない感情と欲求で、彼女の前では、自分はほんとうにただの一人の男なのだと思い知る。
今すぐ愛する女を自分のものにしたい。
それは、男として当たり前の欲求なのかもしれない。今まで、一度として感じたことのないそれを、真依子にはもう何度も感じていた。
止められないキスと、熱くなる体。
俺の男としての本能が、彼女を強く求めているのだ。

彼女をソファに押し倒して、シャツの上から胸を弄れば、彼女が慌てたように身をよじって抵抗し始める。

「……っだ、めっ」
「どうして?」

この状況で拒む理由など何もないはずだと思いながらも、一応理由を尋ねる。

「や、約束が違う!」
「もうそんな約束、必要ないだろう?」

確かに、結婚するまでキス以上はしないと言った。でも、それは思いが通じ合う前の話だし、今も、この前ホテルで無理矢理押し倒したときでさえも、彼女に怯えている様子はない。
だから、今この手を止める必要はないとばかりに、彼女のシャツのボタンに手を掛ける。もうこれ以上反論させまいと、キスで唇を塞いだ。

「んっ……ちょっと、本当に無理だってば!」
「さっきの告白は俺の聞き間違いか、気の迷いか?」
「いや、そういう訳じゃなくて!!」
「じゃあ、どういう訳だ?」

それでも、抵抗を続ける真依子を、服を脱がす手を止めることなく問い詰める。
すると、真依子は観念したかのように、顔を背けながら恥ずかしそうに理由を口にした。

「……あの、緊張して汗かいたから、臭いかもしれないし、下着も急いで適当に選んだから上下揃ってないし……あ、あと、ソファ、汚しちゃうかも?とかいろいろ心配で……」

普段の彼女のハキハキとした物言いとは違い、か細い声で紡がれた女心に、ようやく我に返る。
もちろん臭いなどしないし、例え臭おうが、どんなに変な下着を着けていようが、まるで構わない。
ソファも……汚れるのは別にいいだろう。
だが、初めて結ばれるのが、このソファだということについては、大いに問題があった。

『俺が童貞を捨てたソファで、真依子ちゃんとイチャイチャしたのか?』

かつての透の言葉が頭の中を過ぎる。
とにかく、ここでは嫌だ。
それについては、全力で真依子に同意したい。

俺は頭を冷やすために深呼吸をしてから、紳士的に真依子を抱き起こす。
真依子がホッと息をつくのが分かった。
少し照れくさそうにこちらを見つめる彼女に、俺の理性は簡単に揺らぐ。
気を少しでも抜くと、吸い寄せられるように唇を奪ってしまいそうになる。
それを、ぐっと我慢して彼女の左手を取る。その細くて美しい手首では、俺が贈った腕時計がひっそりと時を刻んでいた。