さらに、どういうことか問いただした私に、谷崎は淡々と語り始める。
初めて知る彼の経歴と境遇に、私は驚いて言葉が出なかった。
谷崎透は私生児として生まれ、幼い頃に谷崎家に引き取られた。
彼を産んだ母親は、お金目当てで谷崎家の当主(透の父親だ)に近づいて子どもを産み、希望したとおりに手切れ金ふんだくった後、生後間もない子どもを置き去りにして、どこかへ消えたらしい。
体面を気にした谷崎家は透を引き取って、育てることにしたものの、物心ついたときからずっと彼は家の中で疎外され続けてきたという。
そんな存在でありながらも、育てた恩を返せとばかりに、政略結婚を強要されたのが、一ヶ月前。
そして、相手側から求められるままに受けたブライダルチェックで、子どもが出来ない身体だと判定されたのだ。
当然のように縁談は破談となり、唯一血が繋がっているはずの父に「役立たず」と一族の前で散々罵られたのが、今日の昼過ぎの出来事だった。
その過酷な境遇と自分の受けた仕打ちについて語りながら、遠くをぼんやりと見つめるその目からは、何の感情も読み取れなかった。思わず涙を流した私を、彼は心底不思議そうに見つめ返す。
『こんなの、大した話じゃないだろ?』
『そ……んな、こと、なっ、いっ……』
そして、本当に面白いものを見た時のように、無邪気にクスクスと笑った。
『何?心優しい瞳ちゃんは、同情してくれてんの?』
『だって、そんな扱いあんまりじゃない。』
『そうか?結婚とか正直面倒臭かったし、これで何も期待されることもない。心置きなく遊べるから、俺にとっては万々歳だけど。』
そう言った彼が無理に強がっているように見えた私の目からは、大粒の涙が次から次へと溢れる。そんな私の姿に溜息をひとつつくと、彼は再び吐き捨てるように言った。
『元々、俺にとっては、地位も名誉もどうでもいい。生きていくのに困らない程度の金と、セックスできるだけの女が居れば、何も要らない。』
そう言い切ると、もう一度可笑しそうにクスクス笑いながら、涙目で見上げる私を、再びベッドの上に組み敷く。
『俺のこと可哀想だと思うなら、もう一発ヤラせて。』
自分の為に涙を流す女に、最低の一言を吐きながら、彼は再び私を乱暴に抱いた。



