「でも、政界のプリンスには通じなかった訳だ。」
瞳は手を休めることなく、会話を続ける。よく喋りながら完璧な仕事が出来るものだといつも感心する。
そして、女子ゆえに話を恋愛方面に持って行きたがるのは、もはや自然の摂理だ。
「きっと、自分に見惚れない女がめずらしかっただけよ。」
「それだけで?わざわざ、忙しいのに食事に誘ったり、裏口で待ち伏せしたりする?」
「からかわれてるだけ。それか、何か他に目的があるか。どちらにせよ、私には関係ないわ。」
冷めた目で淡々と会話をする私を見て、瞳はすぐに何か思い当たったのか、急に顔を曇らせた。
「また、アンタは。本当に一生恋愛しないつもり?」
当たり前のことを、今更尋ねる友人に私は嫌みなほど笑顔を作って答えた。
できれば、この意味のないやり取りは、この一言で終わりにしたい。
「ええ、もちろんよ。」
その言葉の通り、私は恋愛しない主義だ。
もう、かれこれ10年それを貫いている。
瞳とは高校に入ってすぐに友達になり、それからもう十年以上の付き合いだから、彼女は私が恋愛しないことも、その理由も知っている。
知っているはずなのに、彼女は何度も確認する。
そして、私の答えを聞くたび、彼女は切なそうに顔を歪めるのだ。
親友に心配を掛けているのは心苦しいけれど、これだけは譲れないのだから仕方がない。



