「真依子は相変わらずねえ。」
向かい側に座る親友は、ホットコーヒーのカップに今日何度目かのため息を落とすと、バッグの中のメイク道具を取り出した。
美意識の高い彼女は、どうしても私の手抜きの顔が許せないようで。
どうやら、今からメイクをしてくれるらしい。
こんな所でと注意しようかと思ったが、周囲に他の客は居ないし、目の前の道の人通りもほとんどないので、まあいいかという気分になった。
休日の私は、思考もゆるゆるだ。
「アイメイクは時間が無いにしても、口紅とチークくらいは出来たでしょうに。」
呆れて呟きながらも、どんどん私の顔を仕上げていく。
「だって、休みの日だし。武装する必要も無いし。」
「…武装って。やっぱり、アンタにあのメイクを教えたのは失敗だったわ。」
「どうして?私はとっても助かってるわよ。」
「こんなに綺麗なのに、毎日あの能面メイクしてるなんて信じられない。」
私はいつも、あえて冷たい印象を与えるようなメイクをしている。
それは、就職して間もない頃、断ってもしつこく言い寄ってくる医師や患者に嫌気が差していた私に、瞳が伝授してくれたものだ。
男除けには、近寄りがたい雰囲気を出すのが一番だ。
その証拠に、メイクをマスターして以来、ほとんど男から言い寄られることもなくなり、同時に先輩や同僚からやっかまれることもなくなった。
もはや、私には絶対に手放せない魔法の様だった。



