昨日は例の高柳征太郎から食事に誘われた日だった。
どうせ、食事なんて行かないつもりだったし、もしかして待ち伏せされていても、病院から出てこなければ、そのうち諦めるだろうと踏んだのだが。
『昨日の夜、スーツの男の人に声掛けられたんですけど…先輩、もしかして何か約束されてたんじゃないですか?』
夜勤を交代した皆藤さんが今朝出勤してくるなり、私を探してやってきた。
彼女の話によると、相手はやはり裏口で待ち伏せをしていたらしい。
おそらくは、車の中から指示をして秘書か誰かに声を掛けさせたのだろう。
皆藤さんは私の後輩だと顔が割れているから。
『約束なんてしてないわよ。』
『ホントですか?内海さんをお迎えに上がったのですが…って言ってましたよ。』
『新手のナンパか何かじゃない?皆藤さんも気をつけた方がいいわよ。』
『また、真依子先輩は、そうやってはぐらかす~。』
『それより、コンパはどうだったの?』
『あ、結構アタリでした!』
『よかったじゃん。』
『実は…』
まんまと話題をすり替えることに成功した私は、そのまま皆藤さんの昨日のコンパでの浮かれた話を聞いて、彼女の気を逸らした。
変な噂を流されたら、たまったもんじゃない。
皆藤さんが私に悪意を持って居ないことは分かっているが、あれやこれやと陰で言われるのは好きじゃない。
特に恋愛がらみの話は、すぐに広まる。
女社会の話題の中心はいつでも、美味しいものと、綺麗になる方法と、恋愛だ。
女子高生でも社会人でも、おそらく、おばあちゃんになるまでそれは変わらないのだ。



